RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

EP21


コーヒーを飲むとやはりハロームの淹れてたやつとはだいぶ味が違うらしい。
豆の種類やら煎り方やら、なんやら、何もかもが違うんだろう。
あの喫茶店で飲んだ味は戻ってこないことを、食べ物から自覚している。
やんわりと広がる緩い記憶もいつまで思い出せるのだろうか。

コーヒー豆を引く音がキッチンの奥でしている。
コンロの点火音。
横のカルミアはさっさと紅茶を頼んで砂糖をドバドバと入れている。
ダリアは回る椅子でクルクル回っているのだろう。
椅子が軋む音がする。

そのうち熱湯を注ぐ音が聞こえて、そこから立ち上がる華やかな香りは、きっとコーヒーのアロマというものに違いない。
なんとなく心を惹きつけるそれをかげば、ああそこにいるのだなとぼんやり思えていたのだと、今思っている。

コーヒーを飲んだカフェテラス。
青空も海も、漣も本物で、開放感がある。
それの方がうんと自由で、多分豆もこちらの方がいいものなんだろうな。

それでも、ハロームの入れるコーヒーが好きだったのだと、改めて気づいている。

もう飲めない味の話だ。



──そうやって思い出していると、やっぱり食事というものは人との結びつきが強い。
何気ない会話の中で食事というものは付き添うものであり、そして同じものを食べた時にその記憶を思い出すトリガーにもなるんだろう。
今のコーヒーのように。
下で感じて、その時間を記録している。



──今の自分からすると途方も無いくらい先の話に思えるが、あの子にとっては瞬く間の時間において、どれだけ思い出を残してあげられるのだろうな。
食事。
それが苦手どころの騒ぎではないあの子だったから。


「……」
考えている。考えている。考えている。
眼帯を指先で弄っている。

目を、使えば、どうにかならないだろうか。




……

……………


───────────────


あの喫茶店にあの子がいるのを夢想している。
自分の大好きな好きなひとと、自分の好きな人たちが会話して笑ってる、そんな夢を見ていた。



───────────────