RECORD

Eno.276 リベレの記録

点検:薙刀



受け入れるということは、諦めることでもあるのだろうか。

月を見上げる度に思う。
もう両親には会えないのかと。

僕は、親から愛されていた。

母親はいつも大らかで、僕のしたいことにいつも賛成してくれた。
美容師をしていて、いつもはリモートで勤めていたけど……
(僕の世界では、美容院には遠隔操作できるヘアカット用の機械が置いてあって。
 遠く離れたところにいる美容師を指名して切ってもらうシステムだった)
一緒に暮らす僕の髪を直接いじれるのが、とても嬉しいと言ってくれていた。

父親とは、戸籍上の繋がりはない。
国の政策で母に遺伝子を提供しただけの、父親になんてならなくてもよかった人だ。
それなのに、学費やお小遣いを出してくれたり、毎日のように(VR上で)食卓を囲んだり。
一緒に暮らすことこそなかったけれど、あの人は立派な父親をしていた。
真面目なところは父さんに似たんだね、とよく母からは言われたものだった。

僕はそんな両親に、嘘をついてあの世界を出た。
……この世界にリアルを感じたから。
自分のことをフィクションだと感じてしまったから。

後悔はない、けれど。
謝りたいな、とも思う。
きっと心配している。

僕は、この身体が、ひとりの少女の想像の産物であっても──、
それを受け入れて、進みたいと思っている。

でも、諦めたくもないんだ。
いつかこの名前が、あの世界と両親に届くことも。

だって同じ月が……空には浮かんでいるじゃないか。