RECORD
Eno.379 『流浪の英雄』の記録
『豪胆の聖女』
昔々、神様がまだこの世にいらっしゃった頃。
鍛冶を司る神様は、とある人間の女性と結婚をしました。
二人は仲睦まじく時を過ごし、一人の女の子を授かりました。
鍛冶の神様は大層お喜びになって、妻と共に娘を大事に育てたのです。
しかし娘が大事すぎるあまりに、鍛冶の神様は娘を外に出そうとしなかったのです。
娘は成長するにつれ次第に反抗するようになり、遂には神様の作った武器を二つ持ち出して家出をしてしまったのです。
鍛冶の神様は大事な娘が居なくなったのを悲しんで、流した涙がいっぱいに溜まってエリヌエス海となりました。
神様の妻となったニニヤは夫を慰めたものの、ニニヤは娘のことをちっとも心配していませんでした。


だってニニヤの娘は、何と言っても鍛冶の神様の娘。
今までだって実はひっそりと外に出ては、強く逞しく育っていたのですから。
それから数年が経ち、娘はより強く逞しく、そして美しくなって二人の元に帰ってきました。
治癒魔法を身につけ、各地を回って人々を救った為に、いつしか彼女は聖女と呼ばれておりました。
同時に鍛冶の神様が生み出した二つの斧を見事に振り回し、敵に全く怯えることなく突き進んでいく姿が豪胆とも表されるようになっていきました。
それら二つの側面が合わさり、彼女は『豪胆の聖女』と呼ばれるようになっていたのです。


帰ってきた聖女は鍛冶の神様に己の強さと功績を示し、今度こそそれを納得してもらえたのです。
そして持って行ってしまった斧を返そうとしたのですが、それを正式に鍛冶の神様はお与えになりました。
それを聞いた聖女は飛び上がって喜び、そのまま何処かにまた行ってしまったのだとか。
こうして人々から愛された豪胆の聖女は、この地方の人々に長く長く語り継がれる存在になったのです。
そんな神話が語られるその地方で、一人の女の子が犯罪組織に誘拐されてしまう事件が起きてしまいました。
居場所は何処か見当たらず、女の子の父も母もいくら嘆けども、女の子は帰ってきません。
もう駄目なのかと絶望するほどに日が暮れた頃、その“英雄”は現れたのだとか。
薄い緑色の長髪を風に揺らし、夜色の瞳で自信満々に笑う女性。
まるでかの『豪胆の聖女』そのもののような女性は、攫われた筈の女の子を優しく抱きかかえてその家にやって来ました。
後から見つかった犯罪組織のアジトには、斧を豪快に振り回したような痕跡が残っていたのだとか。
女性がその子を母親の元へと帰した時、女の子に向かってこう言いました。


それだけを伝えた後に、女性は名前も言わずにその家を去ってしまいました。
女の子もその家族も戸惑いはありましたが、それでも果敢に挑み、救ってくれたその女性の強さに深く感謝をしました。
それから『豪胆』を受け継いだ女の子は、恐怖に負けずに立派に育ったのだとか。





鍛冶を司る神様は、とある人間の女性と結婚をしました。
二人は仲睦まじく時を過ごし、一人の女の子を授かりました。
鍛冶の神様は大層お喜びになって、妻と共に娘を大事に育てたのです。
しかし娘が大事すぎるあまりに、鍛冶の神様は娘を外に出そうとしなかったのです。
娘は成長するにつれ次第に反抗するようになり、遂には神様の作った武器を二つ持ち出して家出をしてしまったのです。
鍛冶の神様は大事な娘が居なくなったのを悲しんで、流した涙がいっぱいに溜まってエリヌエス海となりました。
神様の妻となったニニヤは夫を慰めたものの、ニニヤは娘のことをちっとも心配していませんでした。

「お母様!私、そろそろ本腰入れて外を見てくるわ!」

「お父様のことは宜しく頼むわね!」
だってニニヤの娘は、何と言っても鍛冶の神様の娘。
今までだって実はひっそりと外に出ては、強く逞しく育っていたのですから。
それから数年が経ち、娘はより強く逞しく、そして美しくなって二人の元に帰ってきました。
治癒魔法を身につけ、各地を回って人々を救った為に、いつしか彼女は聖女と呼ばれておりました。
同時に鍛冶の神様が生み出した二つの斧を見事に振り回し、敵に全く怯えることなく突き進んでいく姿が豪胆とも表されるようになっていきました。
それら二つの側面が合わさり、彼女は『豪胆の聖女』と呼ばれるようになっていたのです。

「何も言わずに行っちゃって、ごめんなさいね……お父様」

「でもこれで私が強いってこと、分かったでしょ!?」
帰ってきた聖女は鍛冶の神様に己の強さと功績を示し、今度こそそれを納得してもらえたのです。
そして持って行ってしまった斧を返そうとしたのですが、それを正式に鍛冶の神様はお与えになりました。
それを聞いた聖女は飛び上がって喜び、そのまま何処かにまた行ってしまったのだとか。
こうして人々から愛された豪胆の聖女は、この地方の人々に長く長く語り継がれる存在になったのです。
そんな神話が語られるその地方で、一人の女の子が犯罪組織に誘拐されてしまう事件が起きてしまいました。
居場所は何処か見当たらず、女の子の父も母もいくら嘆けども、女の子は帰ってきません。
もう駄目なのかと絶望するほどに日が暮れた頃、その“英雄”は現れたのだとか。
薄い緑色の長髪を風に揺らし、夜色の瞳で自信満々に笑う女性。
まるでかの『豪胆の聖女』そのもののような女性は、攫われた筈の女の子を優しく抱きかかえてその家にやって来ました。
後から見つかった犯罪組織のアジトには、斧を豪快に振り回したような痕跡が残っていたのだとか。
女性がその子を母親の元へと帰した時、女の子に向かってこう言いました。

「貴女が無事で、本当に……本当に良かった」

「怖い思いをしてしまったのは分かってる。
だけどどうか、お外を嫌いにならないでね。素敵なことも、いっぱいある筈だから」
それだけを伝えた後に、女性は名前も言わずにその家を去ってしまいました。
女の子もその家族も戸惑いはありましたが、それでも果敢に挑み、救ってくれたその女性の強さに深く感謝をしました。
それから『豪胆』を受け継いだ女の子は、恐怖に負けずに立派に育ったのだとか。

理外の観測者
「それは結局のところ、お伽噺でしかない。
強く気高く美しい、あまりにも綺麗事な空想の存在」

理外の観測者
「“本当の姿”すらも存在し得ない、発生できる筈もないもの。
だって生きていたことがないのだから」

理外の観測者
「それでも彼女は現れた。
薄緑色の髪と夜闇色の瞳を携えて」

理外の観測者
「まるで誰かの想像を知った誰かが精巧に作り上げたかのよう。
偶然ではなく意図を持って――」

理外の観測者
「――――ならば彼女は一体 ”誰”だったのだろう?」