RECORD
Eno.208 《4i.無感動》の記録
無感動の罪
恐怖図書館のあるその世界において、邪悪の木と呼ばれる悪魔組織図は唯一神教の神秘主義の唱えるオカルティズムの概念の一つである。
しかしこれはあくまでも20世紀からその宗教と関係のない異人が唱えだした論説であり、それ以前は悪魔とは関係がなく聖性を隠す比喩的な殻であるというのが通説だった。
そもそもクリフォトに関して、具体的に言及された資料は少なく、各項目ごとによっては解釈も非常にばらける。
終末思想、悪魔学、密教と類似した神智学、あるいは偶像崇拝の悪徳十戒。
セフィロトと相対する物として描かれる事もあれば、それとは全くと関係ない地獄構図であり、騎士団であり、あるいは実や悪性とは全く関係のないネットワークであったそれらは。
件のアダム黙示録偽書を記載したアダムス・バリー夫人が選んだのは、悪魔と紐づけられた虚数単位によって座する木の説であった。
パルシーズ超常インクによって記載された偽書は、多くの擬人化、悪魔に人格と個性を認める記述をもってしてそれを縛る。
それは無気力の星と呼ばれた恐怖に対しても適用されたが、ここで問題が発生したのは、無気力の星に当てはめた記載、無感動の座に座る悪魔に対してそれがあまりにも類似点の多かった事である。
翻訳において、無感動とは得てして『無感情』である事と紐づけられがちであるが、実際のところはそうではない。
心が動かされない様、というのは、他者の苦痛、悲惨、不幸において慈愛を垂れない様を指す。他者へ無慈悲であり、思いやりや赦しを与えないことが無感動という罪のありようだった。
無感動であるとは無慈悲であること。慈愛がなく、利己的で排他的であるとも同時に外への期待を完全に諦めたもの。
それは無気力の星と呼ばれた知性体の有り様を指していた。それは自己完結をし、己のみの利益の為に動いている。己のいいように物事を解釈し、知識を持ちながらも誤った行いしか授けようとはしなかった。
快不快は確かに存在した。見誤ったのだ、バリー夫人は人のように情を持たぬ怪物だと思い込んだが確かにその恐怖には曖昧であるとしても確かな人格を有していた。
余分な情報をねじ込み、その恐怖をばらばらにして書物の空想へと落とし込み封印するのがそのインクの役目であるが、それは余分な情報として加味されなかったために拘束ができなかったのである。
かくしてそのインクは悪魔の内の記述、人格と権能の固定のみをして取り込まれ、それは今もなお体内を巡る黒い血として巡り続ける。
それは、本来であれば封印の意味をなさずに血として回るだけだった。
新たな記述が刻まれて、内を回る血のインクが人の情に反応し、緩やかに悪魔の輪郭をうすっぺらな物へと変えようとしていた。
余分な情報が増えるたび、それの存在は希釈されていく。
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───それでも。
どうでもよかった。
己の身より、退屈がまぎれるのであれば。
それは彼の為ではなく、己の慰めのために。
色褪せ続ける世界の中で、赤と青の光が星のように瞬いている。

しかしこれはあくまでも20世紀からその宗教と関係のない異人が唱えだした論説であり、それ以前は悪魔とは関係がなく聖性を隠す比喩的な殻であるというのが通説だった。
そもそもクリフォトに関して、具体的に言及された資料は少なく、各項目ごとによっては解釈も非常にばらける。
終末思想、悪魔学、密教と類似した神智学、あるいは偶像崇拝の悪徳十戒。
セフィロトと相対する物として描かれる事もあれば、それとは全くと関係ない地獄構図であり、騎士団であり、あるいは実や悪性とは全く関係のないネットワークであったそれらは。
件のアダム黙示録偽書を記載したアダムス・バリー夫人が選んだのは、悪魔と紐づけられた虚数単位によって座する木の説であった。
パルシーズ超常インクによって記載された偽書は、多くの擬人化、悪魔に人格と個性を認める記述をもってしてそれを縛る。
それは無気力の星と呼ばれた恐怖に対しても適用されたが、ここで問題が発生したのは、無気力の星に当てはめた記載、無感動の座に座る悪魔に対してそれがあまりにも類似点の多かった事である。
翻訳において、無感動とは得てして『無感情』である事と紐づけられがちであるが、実際のところはそうではない。
心が動かされない様、というのは、他者の苦痛、悲惨、不幸において慈愛を垂れない様を指す。他者へ無慈悲であり、思いやりや赦しを与えないことが無感動という罪のありようだった。
無感動であるとは無慈悲であること。慈愛がなく、利己的で排他的であるとも同時に外への期待を完全に諦めたもの。
それは無気力の星と呼ばれた知性体の有り様を指していた。それは自己完結をし、己のみの利益の為に動いている。己のいいように物事を解釈し、知識を持ちながらも誤った行いしか授けようとはしなかった。
快不快は確かに存在した。見誤ったのだ、バリー夫人は人のように情を持たぬ怪物だと思い込んだが確かにその恐怖には曖昧であるとしても確かな人格を有していた。
余分な情報をねじ込み、その恐怖をばらばらにして書物の空想へと落とし込み封印するのがそのインクの役目であるが、それは余分な情報として加味されなかったために拘束ができなかったのである。
かくしてそのインクは悪魔の内の記述、人格と権能の固定のみをして取り込まれ、それは今もなお体内を巡る黒い血として巡り続ける。
それは、本来であれば封印の意味をなさずに血として回るだけだった。
新たな記述が刻まれて、内を回る血のインクが人の情に反応し、緩やかに悪魔の輪郭をうすっぺらな物へと変えようとしていた。
余分な情報が増えるたび、それの存在は希釈されていく。
――撫でると心地よくごろごろ喉を鳴らす
自分なんかに小さい身体を任せてくれる、ふわふわが好きだった
ありがとう、と言えばくしゃりと返って来る笑みに
自分もつられて嬉しく思えた
賑やかで、周りが楽しそうで、その輪の隅にでも
いられる自分が嬉しかった
友人関係を聞くのが嫌いじゃなかった
あなたやあなたが、誰かと繋がりがあるのがうれしかった
話を聞いてくれるだけで一時でも満たされた
否定されない事がうれしかった
折り紙が綺麗に折れるとちょっと嬉しかった
縋る事を許されるのは心地よかった
鮮やかな青色だ。 欲しいな 角って神経あるんだろうか
あの羽は飛べる?君の舌はどんな味
腕が治って快適だな
暫く不自由にしていれば構ってもらえるかな
愉悦を差し上げたと言えばなんて顔する?
ああ、いい加減体を動かしたい
───それでも。
どうでもよかった。
己の身より、退屈がまぎれるのであれば。
それは彼の為ではなく、己の慰めのために。
色褪せ続ける世界の中で、赤と青の光が星のように瞬いている。
