RECORD

Eno.794 芍薬の記録

◾️ 音声記録:◾️日

プツン、と録音開始の音声⋯⋯
3回のノック音が聞こえる。


「どうぞ。」



失礼します、と答え部屋に入っていくのは女の声だった。
年齢で言えば⋯20代後半から30代のしっかりとした大人の声。

「⋯⋯お久しぶりです、クックさん。
 まさか、このような形で再びお会いできるとは⋯」


「丁寧な挨拶は結構。
 あなたが後始末で呼ばれることは予知できたことよ。」


「⋯⋯相変わらず手厳しいですネ⋯」



コツカツと机を苛立ち紛れに叩くのは、爪の音。
クックと呼ばれた女はかなり虫の居所が悪かったらしいが⋯
2、3回すれば冷静になって席を立つ。

「⋯⋯⋯、あなたまた妖気がつよくなったんじゃない?」


「そ、そうですか⋯?私は至って普通の人間なので⋯」



よくいうわ。とどこにでもない言葉をこぼしたのち、
ギシと揺れる縄の音が入ってくる。



「あとはあなたの良きように。
 とりあえず部屋から出てくださる?

 一人で大丈夫です。
 初めてのことではないのは知っているでしょう。」



招かれた女からやれやれ、と諦めのため息。
わかりました。と扉に手をかける音。

「⋯いいんですか、このプレゼントの山。
 いつもですけれど、処分しないといけないのに。」


「⋯⋯⋯」


「あ、もしかしてまた押しに負けたんですか?
 そういうところありますよね⋯」


「お黙り。」



早く出ていきなさい、という女の声はどこか、もの悲しそうではあったが
それは無責任な感情であるというように、迷いを押し込めてもいた。

「⋯⋯では、また後ほど伺います。

 ⋯ノルアティアさんは元気にされていましたよ。
 すこし体調は崩されておりましたが、回復に向かっております。」



長い沈黙。クックにとって、その『ノルアティア』という名前がよっぽど
思入れの深い言葉だったらしい。記録であるのに、空気がとても重々しかった。


「⋯⋯⋯⋯失礼します。」


「⋯待ちなさい、テンコ。」



はい、と出ていく寸前の女が止まる。


「あとで、お芋でも焼いて、配ってちょうだい。
 ⋯よくお腹を すかせてる子がいるの。」




「⋯了解しました。
 それでは、わたしはこれで。」


「ええ。お疲れ様。」




ギイと扉が動く音。そして、重々しい空気と共に部屋の中へ閉じ込めていった。