RECORD

Eno.794 芍薬の記録

◾️ 追憶

 
ずっとずっと遠い日を、今も夢に見ている。
自分過去自分未来が同じ時間軸に存在した、奇妙な3年間。





ずっと、ずっと彼女記憶喪失後の私は不満そうで、疎ましがっていて、そして突き放せずにいた。
わたし記憶喪失前のわたしはずっと、彼女のことが愛おしかった。

記憶を失った後のわたしは生き生きとして、自由で、思うままに戦場をかけていて。
『生き方』を縛られているわたしとはまるで違っているのに、自分であることが本能でわかる。
不思議な時間を、わたしたちは過ごしていた。



「⋯シャクの     。」


あら、どうして?

「     、 し」


そんなことないわ。あなただけのよさがあるもの。

「⋯そい      ところ 。」


あらあら⋯⋯⋯困った子ね⋯


記憶をなくした後、奇妙な縁が運命のように たくさん、たくさん紡がれた。」
どれも語るには大きすぎて、どれから言っていいものかわからないものまで。

けれど、必ずそれには終わりが訪れてくる。

















   「に、いさん⋯? にいさん なぜ なぜ⋯?」

「何故? 片方しかいられないなら、不要を、選択しただけだ。



  「ああ、そんな そんなこと⋯ ノル、ノルアティア!!

「芍薬。俺にとって 大事なのは⋯⋯」



「やめて⋯ やめて!! ききたくない⋯ ひどい なんて、ことを⋯
 ごめんなさい⋯⋯⋯ごめんなさい ノル⋯⋯⋯だめ⋯⋯





芍薬⋯ 俺は、お前だけ居れば、それでいいんだ。









  ー⋯⋯そこから先は、あまり覚えていない。
  なにかがふつりと途切れたように、世界は途切れてしまって。
  悔恨と憎悪が押し寄せて、どうしようもなくて、全部が巻き戻ってくれないか。
  あの子が死なない世界が、兄を、止めるころす力がわたしにはないのかと
  ずっと、ずっと真っ暗な世界にただ無力に、落ちていく気がして。











「⋯どうする?」


⋯⋯どう、する⋯?

「コンテニューする?」


⋯こん、て⋯⋯⋯?


「いいよ。おねえちゃんあなたの片方には、おせわになったから。
 ⋯でも、あなたはダメ。存在はするけど、すればするほどおねえちゃんから⋯
 片方から、時間を奪うことになる。ぼくも万能じゃないから、そこは ごめん。」


⋯⋯⋯⋯、できる、の?

「できるよ。一応。応急処置だとおもって。」


⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯。

「どうする?」


⋯⋯ありが、とう⋯⋯⋯。





「⋯きにしないで。」


⋯⋯もうひとつ、持っていきたいものが、あるの。

「きくよ。」


⋯にいさんを つれていきたいの。ころしたいの。










「わかった。
 でもぼくは、機会を与えるだけだよ。」


⋯⋯機会を⋯

「あなたは⋯あなたというか、あなたの血筋は⋯定めがあるから。
 ぼくから言えるのは、それだけ。

 ⋯⋯ できる?」



⋯⋯ええ。

「⋯⋯それじゃあ、ぼくは進むね。
 あまり立ち止まっていいものじゃ、ないから。」







カチ、コチ。秒針の音が聞こえる。
一度だって、この夢を忘れたことはない。


⋯⋯ノックの音が聞こえる。



「⋯どうぞ。」


「失礼します。
 ⋯⋯お久しぶりです、クックさん。」




この世界に兄はいない。
ならば、さっさと巡らなくては。
⋯力は、十分に示されたのだから。


「丁寧な挨拶は結構。」




もらった懐中時計を、懐へとしまった。