RECORD
Eno.794 芍薬の記録
ずっとずっと遠い日を、今も夢に見ている。
自分と自分が同じ時間軸に存在した、奇妙な3年間。

ずっと、ずっと彼女は不満そうで、疎ましがっていて、そして突き放せずにいた。
わたしはずっと、彼女のことが愛おしかった。
記憶を失った後のわたしは生き生きとして、自由で、思うままに戦場をかけていて。
『生き方』を縛られているわたしとはまるで違っているのに、自分であることが本能でわかる。
不思議な時間を、わたしたちは過ごしていた。
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あら、どうして?
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そんなことないわ。あなただけのよさがあるもの。
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あらあら⋯⋯⋯困った子ね⋯
記憶をなくした後、奇妙な縁が運命のように たくさん、たくさん紡がれた。」
どれも語るには大きすぎて、どれから言っていいものかわからないものまで。
けれど、必ずそれには終わりが訪れてくる。


「に、いさん⋯? にいさん なぜ なぜ⋯?」
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「ああ、そんな そんなこと⋯ ノル、ノルアティア!!」
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「やめて⋯ やめて!! ききたくない⋯ ひどい なんて、ことを⋯
ごめんなさい⋯⋯⋯ごめんなさい ノル⋯⋯⋯だめ⋯⋯」
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ー⋯⋯そこから先は、あまり覚えていない。
なにかがふつりと途切れたように、世界は途切れてしまって。
悔恨と憎悪が押し寄せて、どうしようもなくて、全部が巻き戻ってくれないか。
あの子が死なない世界が、兄を、止める力がわたしにはないのかと
ずっと、ずっと真っ暗な世界にただ無力に、落ちていく気がして。

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⋯⋯どう、する⋯?
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⋯こん、て⋯⋯⋯?
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⋯⋯⋯⋯、できる、の?
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⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯。
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⋯⋯ありが、とう⋯⋯⋯。

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⋯⋯もうひとつ、持っていきたいものが、あるの。
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⋯にいさんを つれていきたいの。

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⋯⋯機会を⋯
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⋯⋯ええ。
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カチ、コチ。秒針の音が聞こえる。
一度だって、この夢を忘れたことはない。
⋯⋯ノックの音が聞こえる。
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この世界に兄はいない。
ならば、さっさと巡らなくては。
⋯力は、十分に示されたのだから。
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もらった懐中時計を、懐へとしまった。
◾️ 追憶
ずっとずっと遠い日を、今も夢に見ている。
自分と自分が同じ時間軸に存在した、奇妙な3年間。

ずっと、ずっと彼女は不満そうで、疎ましがっていて、そして突き放せずにいた。
わたしはずっと、彼女のことが愛おしかった。
記憶を失った後のわたしは生き生きとして、自由で、思うままに戦場をかけていて。
『生き方』を縛られているわたしとはまるで違っているのに、自分であることが本能でわかる。
不思議な時間を、わたしたちは過ごしていた。
「⋯シャクの 。」
あら、どうして?
「 、 し」
そんなことないわ。あなただけのよさがあるもの。
「⋯そい ところ 。」
あらあら⋯⋯⋯困った子ね⋯
記憶をなくした後、奇妙な縁が運命のように たくさん、たくさん紡がれた。」
どれも語るには大きすぎて、どれから言っていいものかわからないものまで。
けれど、必ずそれには終わりが訪れてくる。


「に、いさん⋯? にいさん なぜ なぜ⋯?」
「何故? 片方しかいられないなら、不要を、選択しただけだ。」
「ああ、そんな そんなこと⋯ ノル、ノルアティア!!」
「芍薬。俺にとって 大事なのは⋯⋯」
「やめて⋯ やめて!! ききたくない⋯ ひどい なんて、ことを⋯
ごめんなさい⋯⋯⋯ごめんなさい ノル⋯⋯⋯だめ⋯⋯」
「芍薬⋯ 俺は、お前だけ居れば、それでいいんだ。」
ー⋯⋯そこから先は、あまり覚えていない。
なにかがふつりと途切れたように、世界は途切れてしまって。
悔恨と憎悪が押し寄せて、どうしようもなくて、全部が巻き戻ってくれないか。
あの子が死なない世界が、兄を、止める力がわたしにはないのかと
ずっと、ずっと真っ暗な世界にただ無力に、落ちていく気がして。

「⋯どうする?」
⋯⋯どう、する⋯?
「コンテニューする?」
⋯こん、て⋯⋯⋯?
「いいよ。おねえちゃんには、おせわになったから。
⋯でも、あなたはダメ。存在はするけど、すればするほどおねえちゃんから⋯
片方から、時間を奪うことになる。ぼくも万能じゃないから、そこは ごめん。」
⋯⋯⋯⋯、できる、の?
「できるよ。一応。応急処置だとおもって。」
⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯。
「どうする?」
⋯⋯ありが、とう⋯⋯⋯。

「⋯きにしないで。」
⋯⋯もうひとつ、持っていきたいものが、あるの。
「きくよ。」
⋯にいさんを つれていきたいの。

「わかった。
でもぼくは、機会を与えるだけだよ。」
⋯⋯機会を⋯
「あなたは⋯あなたというか、あなたの血筋は⋯定めがあるから。
ぼくから言えるのは、それだけ。
⋯⋯ できる?」
⋯⋯ええ。
「⋯⋯それじゃあ、ぼくは進むね。
あまり立ち止まっていいものじゃ、ないから。」
カチ、コチ。秒針の音が聞こえる。
一度だって、この夢を忘れたことはない。
⋯⋯ノックの音が聞こえる。
「⋯どうぞ。」
「失礼します。
⋯⋯お久しぶりです、クックさん。」
この世界に兄はいない。
ならば、さっさと巡らなくては。
⋯力は、十分に示されたのだから。
「丁寧な挨拶は結構。」
もらった懐中時計を、懐へとしまった。