RECORD

Eno.345 エイサの記録

/Humpty Dumpty



夢を、見ている。

それは家に帰った日の夜。とても寒い夜のことだった。
ふと物音で目を覚ます。目を閉じた自分の目の前に誰かが立っていた。その首元――無防備な喉に、その何者かの手が触れる。

・・ ・・・
手が、触れた。


戦慄する。
筋肉が瞬時に緊張し、暴力的な意識が起爆する。



この■■の存在に■も気付かなかったのだろうか。■■号は? 八■は? 
ここまで■に近付かれて―――■■に■ているのか――それとも既に■されたか。

■される――■す――■さなければならない。
これは■だ。■■の■を■う■。見逃せば■に■■が■る。

この場で ■しておかなければ―――!!




嗚呼、遠くで野犬の声がする。
わんわんと、わんわんと、噎せ返るような熱気の中で鳴き声が反響する。

正気を犯すような世界だった。
狂気を宿すような世界だった。
阿鼻叫喚に浸されている。

必死で目の前の敵に腕を伸ばし――――












――――ぱきん。
 なにか喉骨が砕ける音がした。






鳴き声は止んだ。
熱気もやがて、静まった。


そして、目を覚ます。









足元に、女が転がっていた。
                     その黒い髪を 知っている。

それは、虚無の表情をしていた。
                    明るくて、元気で、いつも眩しい笑顔を浮かべていて、

手にはあたたかそうな毛布を握ったままで。
                    抱きしめると柔らかくて、温かくて、安心できる、

もう口を開くことはない。   
      
                    何よりも、誰よりも、大切な――――






「……かあ、さん?」




その様は戦場で何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も見続けてきた人の死ぬ姿と、何も変わりはしなかった。
遺言も、怨嗟も、呪詛も、ましてや赦しなどあるはずもなく、
彼女はただ、寝ている息子に毛布を掛けてやろうとして、あっけなく死んだ。


鳴き声は、もう聞こえない。
窓からは、寒々とした風が吹き込んでいる。

それでも、世界はいつまでも、狂ったままだった。







……
………………
……………………、


今でも、思うことがある。
あの時、例え男達に殺されてでも抵抗していれば――改造手術さえ受けなければ。
何か変わっていたのだろうか。彼女は今も生きていてくれただろうか。

そして、こうも思うのだ。
だとしても、何も変わらないのだろうと。



……そう。何も変わらない。

自分が戦争に行った時点で、きっと、この結末は決まっていたのだろうCouldn’t put Humpty together again.、と。