RECORD

Eno.480 タラッタムー・スラットゥスの記録

タラッタムーと三人の子供たち・下

 スラムの子供たちをさらったのは、とある魔術師でした。
研究分野は変化魔術。人の頭脳と意志を持ったまま、別の生物へ変化をさせることは冠持ちの魔女と呼ばれるレベルのものしか行えません。彼は凡才ではありましたが、それに手を伸ばしました。
実験は日々成功、ただし一方通行。変わった人間は、二度と元の姿には戻れません。
 そんな実験を連日他人でしていた彼は当然、魔術ギルトから登録を抹消されお尋ね者となりました。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。その技術を、裏社会のとある組織が買いました。
「病原体でもつけて送りつける」「爆弾でも乗せて飛び込ませる」
「知能と才を継いだ子が成せるなら尚良い――いくらでも使える」
「使い捨ての暗殺者には丁度いい」
 とかそんな理由です。スポンサーを手に入れた彼は、スラムの子供たちをさらって日々実験を繰り返していました。

 丁度、大人数の実験体を手に入れ――ネズミへの”変換”が成功し。とある王国への攻撃に使うということが決まりました。
魔術師は大変喜び――そして。彼の命はその日の夜終わったのでした。

 たった一匹のネズミによって。 
***
 三人が再び目覚めた時、目の前に居たのは一匹の人間でした。
 巨人みたいに大きな青年。いや、三人があまりにも小さい所為ですね。
――彼には存在しない大きな獣の耳と、尻尾。住処にあったカーテンのマントと、盗んだ冒険者の装備を付けていました。
赤く染まったモルガナの呪術用の短剣をカランと落として、返り血に染まった青年はボロボロ泣いていました。
 三人はそれがすぐに、魔法を使ったタラッタムーだとわかりました。
「助けに来てくれたのかい?」
「……、……!………、誰も居なくなってて 匂いを辿って」
 わんわんと泣いています。起きた他の子たちがチューチューいいながら崩れ落ちた青年の肩や膝に駆け寄って撫でていました。
 三人もチュウ、と駆け寄ってタラッタムーをよしよししました。
「なんで 君たちが 君たちは 人だから いっぱい未来があって いっぱい色んなこと 出来たはずなのに こんな こんな仕打ち――」
 タラッタムーにはここに至るまで、あの魔術師の言っていることは全く理解できませんでした。ので全ての使い魔をぶち倒し、思いっきりはっ倒したわけですが。
助けた子供たちを見ると魔力の形、魂の在り方がぐにゃぐにゃになっていて――子供たちがもう二度と人間の姿に戻れないのだということだけはわかったのです。かの日、彼らが語ってくれた夢は、こんなどうでもいい出来事の為に潰えるのかと。それを考えると、タラッタムーは涙が止まりませんでした。

 かわいそうだ、と言いかけた彼の口を飛ぶように動いたモルガナが止めました。
「かわいそうだなんて言わないで、タラッタムー。貴方はその言葉が嫌いだったでしょう?」
続けて、マルジンがぺちぺちと彼の肩を叩きます。

「俺たちはこうなっちまったけど、まあ――まだ生きるのをやめるには至らねえよ」
「そうとも!なにせ、ネズミでも大きな夢を持てることを僕らは知っている!」
「誰も死んでないしね」

「――私たちを助けに来てくれて、ありがとうタラッタムー」
 
 その言葉が最後の決壊につながったのか、ポンと元に戻るともう何度目かわからない泣き声を上げて。
…子供たちもついに我慢がきかなくなったのか、同じように泣いて皆で抱きしめあいました。
月も見てない、薄暗い夜の出来事でした。
***
 その日から、タラッタムーは王様になりました。子供たちの国の、夢を守るための王様です。
自分一人だけの夢に、彼らを加えて。獣は果てを目指す旅を続けました。