RECORD

Eno.134 キィランの記録

“悪魔の星”のおはなし

 
 星の研究で栄えた王宮魔導士の家アステールに、
 ひとりの子供が生まれました。

 子供はアルバと名付けられました。
 夜明けの意味の名を持つその子は、
 すくすくと真っ直ぐに育ちました。

 星の研究で栄えた王宮魔導士の家に、
 ひとりの子供が生まれました。

 子供は────と名付けられました。
 悪魔の星の意味を持つその子は、
 幼いうちに孤児院に捨てられました。

  ◇

 “悪魔の星”は魔法破壊の力を持っていました。
 誰もが属性魔法を使えて当たり前の魔導王国に於いて、
 その力は脅威と見做されて排除されかねないもの。

 “悪魔の星”はそれに加えて、
 世にも奇妙なツートーンの瞳を持っていました。
 その子はどう見ても異端の存在でした。

 由緒正しきアステールの家にそんな子がいたら、
 家の今後がどうなるか分からない。
 弟と離れたくなくて泣くアルバを無視し、
 “悪魔の星”は捨てられました。

 魔導王国の家に生まれたから。
 アステールの家に生まれたから。
 その子は、其処に居てはならない存在だから。

 捨てられたその子はいつか己の実家を知って、
 家を、国を、世界を、憎むようになりました。

  ◇

 魔法破壊の破術師だから、
 “悪魔の星”が触れた魔法関連のものは、
 みんなみんな壊れてしまう。

 孤児院から逃げてスラムに流れ、
 美しくはあったその容姿を利用し、
 時に身体を売ってさえもお金を得ようとした少年。
 けれど彼は、魔導士だけは決して相手にしませんでした。

 触れたら壊してしまう、触れたら傷付けてしまう。
 だから、触れないようにした。
 “悪魔の星”の中身は、はてさて。
 本当に悪魔だったのでしょうか?

 生きていくのに精一杯と言いながら、
 “悪魔の星”は関わる相手を選びました。
 されど彼に触れて問題のない人たちは、
 弱い彼に暴力を振るい、時に殺す寸前まで行きました。

  ◇

 誰が少年を“悪魔”にしたのか?
 心優しかったはずの少年の心は、
 捻じ曲がらざるを得ませんでした。

 堕ちて、麻痺して、壊れて。
 夢も希望も、何処にもないない。

 それでも人に触れないのは、
 スキンシップを恐れるのは、
 “悪魔の星”に残った、欠片のような善良さ。

 少年は悪魔に成り切れませんでした。
 少年はそんな己の中途半端な弱さを呪いました。

 魔法破壊の力を応用すれば、
 魔導王国を滅茶苦茶に出来るかも知れないのに。
 少年はその力を使うのを嫌い、
 故にこそ自ら、苦難の道を歩むことになりました。

  ◇

 その星を見つけた人がおりました。
 魔導王国の風王子。自由気ままな第二王子。
 スラムの底から星を連れ出して、
 己の隣で輝くようにと命じました。

 少年は、星は、
 己が此処に居ても良い理由を手に入れました。

  ◇

 星は今、恩人たる風王子の隣にはいませんが。
 輝ける場所を貰えたのです。
 小さくとも微かでも、堕ちていても、きっとこれから。

 未来を切り拓く破術の刃キィラン・リリィスの物語は、
 長く永く、続いていくんだ。