RECORD

Eno.212 フィオルライレの記録

【人の頁】享受

僕らを飼う魔女達は七人。
それぞれがひとりずつ人間の召使を従える。
召使達は皆、魔女に願いを一つ叶えられ、契約関係にあり、その願いの代償として『館』で働くことになる。
そして『怪神』という上位種族に供物として従事し、その恩恵として魔女達は怪神から魔力を賜っている。

青色の魔女は囚人を。
赤色の魔女は道楽者を。
緑色の魔女は王子を。
水色の魔女はピエロを。
橙色の魔女は庭師を。
金色の魔女は自称"神"を。
紫色の魔女は、僕を。

召使は怪神に愛想を売り、体を売り、命を売り。
可愛がられ、愛され、嬲られ、喰われていく。
魔女の結界である館の敷地内では死ぬ事は許されず、幾度も死を味わう事になる。
これまで何人かは館を抜け出し、自ら命を絶ったり、怪神の餌食になったと、囚人から聞いた。
一度は道楽者とピエロに連れられて館を出ようとしたが、惨憺たる結末だった。
一方で庭師と"神"はこの暮らしを享受していた。
そういう生き方もあるのだと。

囚人は一番長くこの魔女の敷地に住んでいる。
30年働き、願いの契約を精算して一度は人界に帰ったが、そこにいた両親はすっかり年老いており、若いまま変わらぬ姿の彼を息子だと認めず追い返した。
彼は人界に居場所を見出す事はなく、数年後また青色の魔女の元へ自ら帰ってきた。

人界に希望を見出せない僕もいずれそうなるのだろうか、なんて考える。
"神"は僕に言う。「そう言う人間がいてもいい」と。
庭師は僕に言う。「君にここにいてほしい」と。

そして紫の魔女は僕に言う。
「召使じゃなくて友達になろう」と。

王子…ハチさんが届けてくれた手紙には
紫色のインクでそう書かれていた。
たった一言だけ。

魔女と話がしたい。今なら話せる気がする。
今度は逃げずに、僕の願いについて、僕の意思で。