RECORD

Eno.111 アルバート・ヴァイルシェールの記録

まちがいばかりの人生でした

「騎士団の連中が乗り込んできたとき、初めて恐怖ってのを知った」

「大勢の人間が人ん家壊して、無理矢理俺は連れてかれて。
 何言ってんのかいまいちわかんねえしで」

「やめてなんて言えない。知らねえんだもん。
 ただ怖かった、」



「保護されたはいいが、連中俺から祝福を剥がそうとしてくるし。
 生贄なんて許されることではない、こんな子供がって」

「助けの求め方なんか知らない。俺は泣いてた。
 暴れかたも知らない。
 結局人間にどうこうできる話じゃなくて助かった」


「あの部屋に帰りたかった」


「たまに……俺が主の火による死を心待にしているのは、
 どうしてあのままあの部屋で餓死させてくれなかったの、って」

「嘆きから来てたんじゃないか……って、錯覚する」

「務めを果たしたいし、ただ主の炎の中に溶けたいんだけどさ。
 貰ったものを返したい、火のなかに還りたい、でも
 なんか……その辺はきっと否定できない気がして……」

「親父もお袋も同胞も、多分みんな殺されたのに
 俺はこどもだからって助かったんだよな」

「なんで俺だけ……」



「そのあとは施設に預けられたけど、当然噛み合うわけない」

「問題起こしては怒られて、なんでこんな簡単なこともわからないのって。
 造語も当然通じないし、教えてもらおうとしても自分で考えろって」

「無理矢理肉も食わせられた。
 俺はパニック起こして喉に指突っ込んで吐いたらしい。
 あんまり覚えてないけど。そんなんばっかで」

「最後はあんたなんかもういい、ってたらい回し、」


「何が変なのか教えてよ、わかんないんだよ、
 考えてもわかんないんだよ、
 話したって誰も理解してくんないし」

「教えてくれそうな人もそのうち匙を投げる、」

「身体だけ育って、なんにも……」


「体罰を受けたとき、馴染みのある痛みなのにちっとも嬉しくなかった。
 感じるのがうれしくない気持ちばかりだっから」

「そんな思いで俺を殴らないで、って思った。
 うれしいことのはずなのに、嫌な気持ちにならないでって、」

「わかんないなりに頑張って覚えようとしたのは、多分そこから。
 よりよくなってほしかった。
 俺のせいでそんな思いさせたくなかった」

「でもただしいをすればするほど痛みはなくなった!
 代わりに撫でられるようになって、触られるのが、
 全然違う言語を浴びせられてるみたいで、」

「………………、
 今は、克服したい、って思ってる……」



「髪もさ、今よりずっと長くって。10年ぐらいで一気に切って、
 主への贈り物にするって決めてた。」

「みっともないから切れ、って切られかけて、初めて嫌って言った。
 すげぇ嫌がるし、体罰も叱っても微妙に効果がねぇから、
 ……罰に使われた」

「泣いて謝っても許してくれない、俺のせいだから仕方ない、
 やめてもやだも覚えたまま言ってもだめで、」

「約束を守らないとこわくてしかたなくなった、」


「全部……俺に普通ができなかったのが悪くて、
 期待に応えらんないのが苦しくて、
 頑張るから捨てないでって、ずっと…………」


「……でも実は、一人だけ根気強く教えてくれた人がいてさ。
 痛いってのがほんとはよくないこと、って知れたのもその人のお陰」

「重傷の人が沢山いる医務室に連れてきて……
 みんな辛そうで、痛い、痛いって苦しんでんのをさ、見せてきて」

「俺本当におかしいんだ、ってはっきり自覚した」

「身体が異常を訴えてるサインだから、ほっといたり
 欲しがったりしたら身体に悪いし、よくないんだって」

「…………だから直そう、ってのには……
 応えらんなかった、な……」


「俺の話聞いてくれるってだけでうれしくて。
 お返しがしたかった。いつもありがとうって」

「バカだよな。沢山考えて、使い道のあるもの贈ろうって思って。
 俺はなくなっても治るから大丈夫!ってさ」

「その人の目の前で、大きく削いで渡した。
 あげる、なんて笑って、人目も気にしないで」


「阿鼻叫喚も良いところだ」

「吐かれた。泣かれた。なんでこんなこと、って。
 悲鳴がまだ残ってる気がする。俺も大盤振る舞いなせいで倒れたし」

「引き摺られて吐く奴他にもいたし、血全然止まんないし。
 やばい意識の遠退き方するのが妙に暖かくて、
 なのに寒くて……」


「次の日からその人は居なくなった。」


「俺のせいで取り返しのつかないことになったんだ、ってことだけ
 よく、わかってた」