RECORD

Eno.54 アジュール・プリズムの記録

二十六基 海月

海月の侵略者──笠を被った和装の人型は、暗く冷たい、深海めいた空間。
海月の触腕のような、ゆらり、ゆらりと揺らめく、暗色の布を被った姿は、
外見のみで判断をするなら、顔こそ見えないけれど、若い人間に思えた。
人型は何も無い、暗い空間に手を伸ばして、動物を撫でるような手つきをする。 何も無い、のに、何かいるような、そんな素振りだ。

「──噫、螟悶↑繧九b縺ョ繧呈賜譁・縺吶k荳也阜」


やがて人型は爪を立てた。
がりがりと音が鳴り、虚空に傷が生じていく。空間が歪み、横の一線が現れて、ぐわんと開かれた。
人型を容易に飲み込めるほどの巨大な瞳は、白く虚ろに、アジュール・プリズムを見据えた。

「──」


アジュール・プリズムは思う。
ここは侵略者の口の中、胃の中、ではないかと。
この空間は、天使に、世界にとって害を及ぼすものである。
しかしあの虚空には見覚えがあった。
……正しく表現するのなら。
あのような巨大な瞳をしたものに見覚えはない筈だが、
既視感がある気がしたのだ。
あれは何処で目にしたのか? どこで出会ったのか? 何者なのか?
そんな思考をするアジュール・プリズムに構わずに、人型は口を開いた。

「縺ゅ>縺ォ縺上→縲∵ョコ縺輔l繧九▽繧ゅj縺ッ──……」

「……、……な、に?」


人型から発せられた言葉は、
ただの音として処理をされてしまって聞き取れない。
戸惑うアジュール・プリズムに、人型は笠を傾ける仕草を見せてから、傍らの巨大な目を見た。
暫し、見つめ合うような仕草の後に、 人型は一つ頷く。
瞳は役割を果たしというふうに閉じられて、再び空間に暗闇が訪れた。
そして人型は、アジュール・プリズムへと向いて、口を開いた。

「迷った。帰路は何処かね」


 初めて言語化された言葉は、それだった。