RECORD
Eno.48 Siana Lanusの記録





*

穏やかそうな男の声が、ノックの音とともに部屋の外。
熱に浮かされて意識の微睡む中、返事もせずにしていたら扉は勝手に音を立てて開いた。
……先日から吐き気がひどく、茶すらも拒んでいたところ
体調が崩れてしまって高熱が続いていた。
熱のせいで思考が回らないのは幸いだが、結局熱のせいで吐き気も引かず
なかなか復調しないまま数日が経っていた。
入室して来た神父──ウェレニローズは柔く笑っては私の傍まで来、
いつもフルテスの座るサイドチェアへと腰を掛けた後
どこか慣れた動作で、私の額へと触れた。

じっと司祭の行動を見ていたからか、苦笑混じりにそんな言葉を掛けられる。
警戒している気は今は無かったが、あれからしばらく落ち着けてないのは事実だった。
敵地の中で、傷付いた状態で独り。
立場を隠して彼らの好意を利用すればいいと思いはするが、
好意を受け取る素直さも利用してやると割り切る狡猾さも持ち合わせておらず、
気が休まらなくなってしまった挙句のこのざまだ。
額に触れた男の手に、ゆるゆると熱が移っていく様な感覚がする。
治癒の奇跡でも行使してるのだろう、
気道の開く心地がして、無意識に止めていた息を吐いた。

私の額を撫でながら、司祭は柔らかな声で語る。
その時の事は思い出そうにもよく思い出せないが、
なるほどポーションのお陰で命拾いしたのかと
納得して、ゆるやかに頷いた。
その話を今切り出すという事は、何か伝えたいことがあるのだろう。



どうかな、と言葉を切った司祭を見つめた瞳を、一度閉じる。
司祭の言わんとしてることは、分かる。
ここでは適切な治療を受けられないから街に頼ろうと、いうわけだ。
こんな小さな村で重傷患者の治療が必要になる事などふつうないのだ。
そもそも彼らに負担をかけすぎている自覚はある。
フルテスは多くの時間私の傍に居るし、包帯や薬などの物資も
わざわざ私のために新しいものを用意したりしているらしいのだ。
この2人しか居ないこの境会で、だ。
彼らにこれ以上恩を膨らませたくは無いし、自分の身体のためにも街で治療をしてもらう方がいい。
……だが。


──もし。自分の素性がバレたら、
きっと否応なしに死罪だろう。
境会に盾突いただけでなく、その重役たちを暗殺し
街に魔物をけしかけ多くの民衆を危険に晒した私たちには、きっと弁明の余地も無い。
ひと目に着くのは危険だ。
その中でも、都会の腕のいい者たちのもとは特に。


……ウェレニローズは何かに気付いた様子だった。
それもそうだ、その提案を拒むことにメリットなんて無い。
此処で治療を続けても、命が助かる保証が無い。
少なくとも、追われる立場であるということ。
それをこの司祭に悟られるのが凶では無いことを
願うことしか、熱い頭では出来なかった。
├経過07

「あれ、シスター?シアーナさんの様子を見てたんじゃないの?」

「そうだったんですけど、ちょっと居づらくて……。
シアーナちゃんなんだか最近様子がおかしくて。
緊張しているというか、何かを怖がってるというか、
なんというか……」

「うーん……傷は治って来てるんだよね、
今までは余裕が無かったけれども、治ってきたから
色々思い出してしまったんじゃないかな。
傷を負う経緯とか、その時の事とか……」

「……何かわたくしたちにしてあげられる事があればいいんだけれども」

「……僕達は彼女の事を何も知らないから、中々ね」
*

「シアーナさん、具合はどう?入ってもいいかな」
穏やかそうな男の声が、ノックの音とともに部屋の外。
熱に浮かされて意識の微睡む中、返事もせずにしていたら扉は勝手に音を立てて開いた。
……先日から吐き気がひどく、茶すらも拒んでいたところ
体調が崩れてしまって高熱が続いていた。
熱のせいで思考が回らないのは幸いだが、結局熱のせいで吐き気も引かず
なかなか復調しないまま数日が経っていた。
入室して来た神父──ウェレニローズは柔く笑っては私の傍まで来、
いつもフルテスの座るサイドチェアへと腰を掛けた後
どこか慣れた動作で、私の額へと触れた。

「…………そんなに警戒しなくても。
君に何かしようとするなら、この1ヶ月でやってるんだしね。
そんな気を張ってたら、身体も休まらないでしょ」
じっと司祭の行動を見ていたからか、苦笑混じりにそんな言葉を掛けられる。
警戒している気は今は無かったが、あれからしばらく落ち着けてないのは事実だった。
敵地の中で、傷付いた状態で独り。
立場を隠して彼らの好意を利用すればいいと思いはするが、
好意を受け取る素直さも利用してやると割り切る狡猾さも持ち合わせておらず、
気が休まらなくなってしまった挙句のこのざまだ。
額に触れた男の手に、ゆるゆると熱が移っていく様な感覚がする。
治癒の奇跡でも行使してるのだろう、
気道の開く心地がして、無意識に止めていた息を吐いた。

「──君を見付けたのはこの村のはずれでね、
その時の君は本当に酷い状態だった。
有事用に持ってた中級ポーションが無かったら、
そしてもう少し発見が遅れていたら、
多分君の命はここまで繋がらなかっただろう」
私の額を撫でながら、司祭は柔らかな声で語る。
その時の事は思い出そうにもよく思い出せないが、
なるほどポーションのお陰で命拾いしたのかと
納得して、ゆるやかに頷いた。
その話を今切り出すという事は、何か伝えたいことがあるのだろう。

「でも中級ポーションじゃ致命傷を完全に治すだけの効力は無い。
この村は医療設備も乏しいし、衛生環境も悪いし、
僕達の使える奇跡もそれほど強くはない。
……正直、ここでは君の命の保証が出来ない」

「君の意識が戻って、ある程度起きてられる体力も前よりついたし、
君さえよければ、近くの街の神殿まで送ろうと思うのだけど……」

「…………」
どうかな、と言葉を切った司祭を見つめた瞳を、一度閉じる。
司祭の言わんとしてることは、分かる。
ここでは適切な治療を受けられないから街に頼ろうと、いうわけだ。
こんな小さな村で重傷患者の治療が必要になる事などふつうないのだ。
そもそも彼らに負担をかけすぎている自覚はある。
フルテスは多くの時間私の傍に居るし、包帯や薬などの物資も
わざわざ私のために新しいものを用意したりしているらしいのだ。
この2人しか居ないこの境会で、だ。
彼らにこれ以上恩を膨らませたくは無いし、自分の身体のためにも街で治療をしてもらう方がいい。
……だが。

「 …………いや、 」

「まちには、いけない……」
──もし。自分の素性がバレたら、
きっと否応なしに死罪だろう。
境会に盾突いただけでなく、その重役たちを暗殺し
街に魔物をけしかけ多くの民衆を危険に晒した私たちには、きっと弁明の余地も無い。
ひと目に着くのは危険だ。
その中でも、都会の腕のいい者たちのもとは特に。

「……何をそんなに怯えて──、……いや」

「…………分かった。
僕たちに出来る手は尽くさせてもらうから、
君もどうにか、頑張って欲しい」
……ウェレニローズは何かに気付いた様子だった。
それもそうだ、その提案を拒むことにメリットなんて無い。
此処で治療を続けても、命が助かる保証が無い。
少なくとも、追われる立場であるということ。
それをこの司祭に悟られるのが凶では無いことを
願うことしか、熱い頭では出来なかった。