RECORD

Eno.379 『流浪の英雄』の記録

『流浪の英雄』

むかしむかし、とある道に泣いている女の子がおりました。
そこへ旅人が通りがかりました。

「泣かないで お嬢ちゃん」

旅人は旅先で見つけたきれいなお花を、女の子に差し出しました。
緑に、黄色に、水色の、三つのお花。
女の子は大層喜んで、すっかり笑顔になりました。



それから幾年も経ち、すっかり大きくなった女の子が隣町の酒場で働いていた時のこと。
ふとその話を思い出してお客さんに話してみれば、一人のお客さんが同じように旅人に助けられたと言い出すではないですか。
不思議な偶然かと思いきや、それを聞いた他の人まで、あれよあれよという間に旅人の話をするのです。

食事を分けてもらった。畑仕事を手伝ってもらった。一緒に踊った。
旅人の行いはどれも小さいものの、常に誰かを笑顔にしていました。



人々は改めて旅人から貰った小さな幸せに感謝をして、旅人の行いを書き連ねたものを残しました。
それからまた時が経ち、同じようにどこかの旅人が成した大小様々な幸せと、人々の想いが結び付き、ひとつの形になりました。

こうして人々から愛された名も知れぬ旅人は、この世界の人々に長く長く語り継がれる存在になったのです。








とある民俗学者
「ってのがこの世界……というか主にこの国に伝わる『名もなき旅人』……これは子供用の題名スけど、『流浪の英雄』ってヤツ……」



とある民俗学者
「……なんスけど、実際のとこ人々の言う旅人が全部同一人物だったかどうかは今じゃもう分かんないんスよねえ」


とある民俗学者
「確かに書き記されてはいたんスけれどもね、そこにゃいつ何処に現れたとかは書いてなかったっスから」


とある民俗学者
「てゆーか最終的にはなんかイノシシを吹き飛ばしただの、竜を一人で倒しただの、ホンマかそれ?みたいな記述あるし!そもそも実在さえもショージキ不明なんスよ!?
 名前も顔も姿も全然書いてないくせにー!!」





とある民俗学者
「……でもまぁ」



とある民俗学者
「どんな顔で、どんな姿をしていても。
 きっとこの『流浪の英雄』なら、それが嘘でも本当でも、笑い飛ばしてくれそうな気がするんスよ」






とある民俗学者
「それが人気の理由なんだと、ウチは思うっスよ」