RECORD

Eno.383 クィンクェスの記録

噂話

「若旦那様とお嬢様かい?そりゃぁもう、領内でも有名な仲睦まじいご兄妹でさぁ。
異母兄妹ってんかね?
髪の色も肌の色も、あんまり似てらっしゃらねぇもんだから、他所から来た商人なんかはよくご夫婦と間違えたりしてね。
いやぁ、わしらも一時は良い仲なんじゃと疑って…….」
「こらアンタ、滅多なこと言うもんじゃないよ!
そんな罰当たりなこと、あるはずないじゃないさ!腹違いとはいえ実のご兄妹だよ」
「あぁ、そうさな。そりゃそうだ、分かってるよ!
それにほら、若旦那様には許嫁がらっしゃるからね。わしはお目にかかったこたぁねぇが、随分お綺麗な方らしいじゃないか、え?」
「バカだね、アンタなんかがお目にかかる機会は一生無いよ!
なんてったって若様のお相手は、元老院の執政官様んとこのお姫様だもの」
「けどなぁ、お前。そんな箱入り娘のお姫様が、花の帝都からこんな辺境のど田舎まで、ほんとに嫁におこしくださるんかね?」
「アンタ、そんなことも知らないっての?そのお姫様の方が、帝都の馬上試合で若様に一目惚れなさって、執政官のお父上になんとか頼み込んで許嫁になったっちゅう話よ」
「へぇ、そりゃまた……あぁ、えっと。それで。なんの話だったかね?」
「あぁそうそう!若様とお嬢様のね!
そうさ、若様のお母上は旦那様の亡くなった奥方様。んでその後添えに入られたんが、お嬢様のお母上。今の奥様さ。
んだもんで、ご兄妹っても10ほども年は離れてらっしゃるかねぇ。
若様は長いこと一人っ子だっから、小さい頃から可愛い妹よ妹よってぇそりゃぁもう可愛がってらして。
まぁ、ほら……あんまりおっきな声じゃ言えんけど、奥様はお生まれが“あれ”だろ?
最初はそりゃ、色々あったよ。アッチとの戦はもう長いことないけど、今だって国境挟んで毎日睨み合ってるわけだし。仲良しこよしってわけじゃないからね。
でも若様がそんなだから、アタシらもすっかり絆されちまってさ。今じゃすっかりお嬢様贔屓ってわけよ」
「まぁ実際、素直で明るくて、わしらにも分け隔てなく接してくださる。よく笑うえぇ子だしの、ティア様は」
「まぁね。だからね、アンタ。アンタみたいな余所者が、アタシ達の若様やお嬢様のこと嗅ぎ回っても、誰も良い顔しないよ。何の為だか知らないけど、諦めてさっさと帰りな。
…………え?なんだって?」
「………………」

────帝国歴358年 ディマシュルク辺境領内にて