RECORD
Eno.312 ムサシボウ ベンケイの記録
――………何かのために、あたしたちは、用意された……?

思い返す、耳にした言葉を。ぼんやりと。
フラウィウスは、多くの異世界より闘技者を招く地だ。
故に、己の知らぬ知見を得ることは少なくない。
寧ろ、多いと言っても良いだろう。
翻訳されてはいるというモノの、正しく理解出来ているかは怪しい。
近しい何かの様な場合もあれば、意味だけを理解していることもある。
詰まる所、己に近しい認識に置き換えられているだけに過ぎない。
厳密に言えば、理解出来ているとは言えないだろう。
……そう、だからこそ。
正しく理解出来る筈が無かったのやもしれない。


それが己が世界の『神』の詳細。一般認識。

顎髭を擦り、首を揺らす。思考の仕草。
照らし合わせる。己が神と、異界の―― 創壁神の伝承を。

そして、紡ぐ。己が認識と、異界の神々を。
間違いない筈だ。己の学に自信が無くとも。
ジパングに住む者ならば、口を揃えるであろう一般常識。
……彼女を否定している訳では無い、断じて。差異を明確にしているだけ。
これがこの男の世界の神。何一つ存在を示していないこの存在こそが、この世界の神。
示していないのだ、一つとして。彼の世界とは異なり、意志すらも。
ただ、存在しているで "あろう" という推察されているだけ。

と言ってはいるモノの、……我ながら、よくもまぁ信じているモノだと思う。
彼女の言を耳にしたあの日まで、違和感は無く。
寧ろ、『そう云うモノ』として享受していることに気付いたくらいで。
ある意味では、この感覚自体が神の思惑なのでは?とも。
自分には気付く術が無かった。
過去にフラウィウスに参じ、異界の神々について耳にしていたというのに。
いつの間にか己が神の認識に移り変わり、八年の年月を経ていた。
多くを思わせない、抱かせない。―― 忘れさせられている?
だが、

―― そう考えたならば、辻褄は合う。
己の思考自体が神の掌中。意のままだとすれば。
そして同時、現実味を帯びる。
自分達は、何のために用意された―― ?
自分は、自分なのか?……己が意志は、誠に己のモノなのか?
…………古来より、ジパングは多くの危を脱して来たという。

勇気と、知恵と、誇りと。……意志を以て。
時には神なのではないかという力を持った化け物でさえも。

彼らこそが神であったのかもしれない。
だが、人として伝わっており、……文献も残されている。

……だからきっと、彼らは人だった。いや、神ではない何かだった。
だからこそ、己もまた討ち果たすことが出来たのだから。
妖怪の存在を思えば、神の存在への説得力が増すが……。
だからこそ、存在しないという証明でもある。
神を知らぬ者は居ない。
―― 妖怪の定義で語るならば、その存在はあまりに強固過ぎる。
言の葉のみぞ語られるは、神秘的存在の極致なのだから。
故に、存在していないのだろう。恐らく。
それ程に強大な力を、存在を、隠すことなど出来はしない。
……だからこそ、『神』である証明でもある。二律背反、全く掴めやしない。
だからこそ、やはり神は居ないのだと……思う。
存在を匂わせる書物はあれど、存在は何処にも無い。
あらゆるを成す存在に、死はあるのか……?

力が籠る、握り締めた拳に。握り締めた筈の拳に。それすらも己が意思か定かでは無い。

それすらも、神の掌中。思惑。盤面で生じた事象でしかないなら。

自分達は、何のために用意された?
定かでは無い。何一つとして。けれど、そうだとしたら。
全てが神の成すが儘だとしたら。―― 運命も、死すらも。
主を、友を、親を。……師を。
己に連なる、多くの者達の運命や生すらも、神が定めたのだとしたら。
怒りを覚える他あるまい。
『誰もが幸福な世』が、この男の願望だ。
神の力を以てすれば可能。己が得たならば、その様に行使することだろう。
しかし、そんな機会が訪れる筈も無い。
……無いと言うのに、成せるであろう存在は見過ごしている。
戦い、不幸、困難、不条理。
どうして幸福なだけで居られないのか。居てはいけないのか。
苦しみなど、少なきに越したことはあるまいに。

そこまで考えては、溜息。体の内全てを漏らしたかの様な、大きな。
漏らした所で、何処ぞの喧騒に掻き消されてしまうのだから無常だ。
肝心の己が心中も薄っすらと晴れ、有耶無耶の濃霧。
どれだけ考えようとも、決着は付かない。決着たる答えが無いのだから。
だというのに、目の前にはそんな未完たる現実が現れ出る。
だから、……立ち向かわねばならない。やり切れないなととは言えない。
悪手の他ならない、生命を放棄することは。
局面は最後の一手まで分からない。……分からないということを、知っている。
上手く作られたモノだと、思う。
この様な事を考えたというのに、数時間後には記憶の片隅だ。
そしていつの間にか、『どうでも良いこと』になる。
これのみぞに囚われない。囚われないのが己が世の人間だ。
如何様な様々の想いの果てに、やがて投了を迎える。
明日を思う、次を思う。……異なる『何か』を思う。
この一点のみは、感謝を抱かざるを得ない。
―― 神は何を収めたのだろう?取るに足らない、ただの駒に。
疑神
――………何かのために、あたしたちは、用意された……?

「――、――」
思い返す、耳にした言葉を。ぼんやりと。
フラウィウスは、多くの異世界より闘技者を招く地だ。
故に、己の知らぬ知見を得ることは少なくない。
寧ろ、多いと言っても良いだろう。
翻訳されてはいるというモノの、正しく理解出来ているかは怪しい。
近しい何かの様な場合もあれば、意味だけを理解していることもある。
詰まる所、己に近しい認識に置き換えられているだけに過ぎない。
厳密に言えば、理解出来ているとは言えないだろう。
……そう、だからこそ。
正しく理解出来る筈が無かったのやもしれない。

「神とは、あらゆるを作り出した存在。
拙者の様な人から、天を、海を、地を。
全てを作り出した、全知全能の存在」

「―― 然して、その姿は何処にも無く。
"神のお言葉" と云う教えが残されているのみ」
それが己が世界の『神』の詳細。一般認識。

「ですので、……確かに。
ある意味ではそうなのやもしれませんなあ」
顎髭を擦り、首を揺らす。思考の仕草。
照らし合わせる。己が神と、異界の―― 創壁神の伝承を。

「神にとって、拙者達は箱庭の駒に過ぎない。
拙者達が何を思い、何を成した所で、
その全ては神が描いた "予定調和" である――……道理でござりますな」
そして、紡ぐ。己が認識と、異界の神々を。
間違いない筈だ。己の学に自信が無くとも。
ジパングに住む者ならば、口を揃えるであろう一般常識。
……彼女を否定している訳では無い、断じて。差異を明確にしているだけ。
これがこの男の世界の神。何一つ存在を示していないこの存在こそが、この世界の神。
示していないのだ、一つとして。彼の世界とは異なり、意志すらも。
ただ、存在しているで "あろう" という推察されているだけ。

「まあ、しかし。
…………存在を示すモノが無いというのに、
これ程まで存在が広がっているのも、奇妙ですな」
と言ってはいるモノの、……我ながら、よくもまぁ信じているモノだと思う。
彼女の言を耳にしたあの日まで、違和感は無く。
寧ろ、『そう云うモノ』として享受していることに気付いたくらいで。
ある意味では、この感覚自体が神の思惑なのでは?とも。
自分には気付く術が無かった。
過去にフラウィウスに参じ、異界の神々について耳にしていたというのに。
いつの間にか己が神の認識に移り変わり、八年の年月を経ていた。
多くを思わせない、抱かせない。―― 忘れさせられている?

「それを否と出来る理由は、あまりに少なく……」

「神は、全知全能である」
―― そう考えたならば、辻褄は合う。
己の思考自体が神の掌中。意のままだとすれば。
そして同時、現実味を帯びる。
自分達は、何のために用意された―― ?
自分は、自分なのか?……己が意志は、誠に己のモノなのか?
…………古来より、ジパングは多くの危を脱して来たという。

勇気と、知恵と、誇りと。……意志を以て。
時には神なのではないかという力を持った化け物でさえも。

彼らこそが神であったのかもしれない。
だが、人として伝わっており、……文献も残されている。

……だからきっと、彼らは人だった。いや、神ではない何かだった。
だからこそ、己もまた討ち果たすことが出来たのだから。
妖怪の存在を思えば、神の存在への説得力が増すが……。
だからこそ、存在しないという証明でもある。
神を知らぬ者は居ない。
―― 妖怪の定義で語るならば、その存在はあまりに強固過ぎる。
言の葉のみぞ語られるは、神秘的存在の極致なのだから。
故に、存在していないのだろう。恐らく。
それ程に強大な力を、存在を、隠すことなど出来はしない。
……だからこそ、『神』である証明でもある。二律背反、全く掴めやしない。
だからこそ、やはり神は居ないのだと……思う。
存在を匂わせる書物はあれど、存在は何処にも無い。
あらゆるを成す存在に、死はあるのか……?

「…………」
力が籠る、握り締めた拳に。握り締めた筈の拳に。

「では、拙者達のこれまでは……。
…………先人たちが歩んだこれまでは?」
それすらも、神の掌中。思惑。盤面で生じた事象でしかないなら。

「命を落とした者達の、これまではッ……」
自分達は、何のために用意された?
定かでは無い。何一つとして。けれど、そうだとしたら。
全てが神の成すが儘だとしたら。―― 運命も、死すらも。
主を、友を、親を。……師を。
己に連なる、多くの者達の運命や生すらも、神が定めたのだとしたら。
怒りを覚える他あるまい。
『誰もが幸福な世』が、この男の願望だ。
神の力を以てすれば可能。己が得たならば、その様に行使することだろう。
しかし、そんな機会が訪れる筈も無い。
……無いと言うのに、成せるであろう存在は見過ごしている。
戦い、不幸、困難、不条理。
どうして幸福なだけで居られないのか。居てはいけないのか。
苦しみなど、少なきに越したことはあるまいに。

「はあ~…………」
そこまで考えては、溜息。体の内全てを漏らしたかの様な、大きな。
漏らした所で、何処ぞの喧騒に掻き消されてしまうのだから無常だ。
肝心の己が心中も薄っすらと晴れ、有耶無耶の濃霧。
どれだけ考えようとも、決着は付かない。決着たる答えが無いのだから。
だというのに、目の前にはそんな未完たる現実が現れ出る。
だから、……立ち向かわねばならない。やり切れないなととは言えない。
悪手の他ならない、生命を放棄することは。
局面は最後の一手まで分からない。……分からないということを、知っている。
上手く作られたモノだと、思う。
この様な事を考えたというのに、数時間後には記憶の片隅だ。
そしていつの間にか、『どうでも良いこと』になる。
これのみぞに囚われない。囚われないのが己が世の人間だ。
如何様な様々の想いの果てに、やがて投了を迎える。
明日を思う、次を思う。……異なる『何か』を思う。
この一点のみは、感謝を抱かざるを得ない。
―― 神は何を収めたのだろう?取るに足らない、ただの駒に。