RECORD

Eno.414 『幾千』作品№414 AGEHAの記録

記録3「芋虫」


次に目を開けると、船の上でも水の中でもなく。
最初に見た川辺が広がっていた。
不思議と苦しくはないし、体も濡れていない。夢だからだろうか。
母の姿は……どこにもなかった。船でどこかに行ってしまったのかもしれない。

「………」

自分は来てはいけないと言われた、けど。ここでどうすることもできない。
あの時のように沢山人はいないけど、まばらに人はいた。何人かまとまったり、一人だったり、次々と船に乗っていく。
……今度は、自分は呼ばれない。けれど、一人の船頭の少女が話しかけてきた。

不思議と見覚えがある。

「少年、また来たの」
「運がいいのか悪いのかわかんないけど、もうここにいちゃだめだよ」

少女の言葉にどうしようもなく眉をひそませる。
また来たの、とか。いちゃだめだよ、とか。そんなことを言われても困る、望んでやってきたわけじゃない。

「……お母さんは、どこに行ったの?」

言葉に困って、疑問を口にした。きっと彼女たちが連れて行っているのだから、知らないわけはない。
のだけど、帰ってきた言葉は『知らね』の一言だけ。
その顔は明らかに分かっていて教えてくれない、意地悪なものだった。

「少年にはまだ早いよ」
「知る必要もない。その時が来たらわかる。」
「迷子なんでしょ。あたし、芋虫を潰して遊ぶ趣味はないの」

「だから、蝶々になってからまた来なよ」

少女の手が自分の胸を押した。
大して力は入れられていないのに、体は不思議と後ろに倒れて———そのまま暗闇の中に真っ逆さま。
落とし穴に落ちたみたいに、光がどんどん遠くなっていく。



目を開いた。

ぼやける視界。音が遠くに聞こえる。声が上手く発せない。

白い天井が次第に見えてきて……誰かが、僕を見下ろしていた。


「おはよう。楽しい夢は見れたかな?」