RECORD

Eno.273 玉守 蜜喰の記録

呪いと幸福

私はかつて呪われていた。
私が死んだ後、その肉体と能力を明け渡すという呪い。

その呪いをかけたのは初めてできた友人だった。
……彼は特別な人だった。あれを人は天才と呼んだ。
生まれつき病弱で若くして盲となった後も、彼はそれすら他人に気づかせぬような活躍をしていた。
人間を害する人ならざる者を斃し、それでいながら人ならざる者であろうと人と共に生きようとする人外わたしに知識や力を与えてくれた。

それなのに彼は孤独だった。誰にもその真意を理解されなかった。
私はそんな彼に何かできることがないかと尋ねて言われたのだ。

「君は素晴らしい力を持っている。そして強靭な肉体を持っている」


「僕は長くは生きられない。だが、君はこの先100年、いや1000年でも生き続けるだろう」



「だから、僕の代わりに戦い続けておくれ」




……私はそれに応えられなかった。
私は妖の血を引く癖に争いを嫌い、己や他者が傷つくことが恐ろしかったのだ。
化け物の癖に、化け物らしい性分を持ち合わせることはできなかった。

だから私は人間になりたいのだと望みを明かした。

大喰らいの妖として飢えに苦しみながら、いつか飢えによって理性を失い、大切な人を手にかける……母親のような末路を迎えたくはないと。


だから彼は言ったのだ。

「それなら、やはり僕がやるしかないのだね」



私は彼の意志を継ぐことを拒否した。
だから、彼は私の死後に己がまた戦うという選択をしたのだ。
彼には妻子もいたけれど、ずっと1人だった。
唯一の友人である私が、彼にしてあげられることはもっとあったはずなのに。



…………今はもうその呪いは私の中にはない。
彼の功績は死後にようやく認められ、忘れ去られていた遺骨も家族が眠る墓へと帰ることができた。



私は今でも時々思うのだ。
彼によって私はいつも守られていた。
だというのに、私は彼に何も返せなかった。

彼だけではなく、それから先の人生で関わってくれた人たちにも。


……私は何をすれば良いのだろう。

幸せになって欲しいと願われても、私にはまだどうすれば良いのかわからない。

生まれつき人間じゃない私だから何か見落としているのだろうか。
その答えが、いつかは見つかると信じたい。