RECORD

Eno.54 アジュール・プリズムの記録

二十七基 外なる者

 天使、否、アジュール・プリズムには警戒心がなかった。
 それは、人型に敵意のようなものを感じなかったこともあるが、何よりも、無垢で在れと定められたからだった。
 笠を被った和装の、恐らくは人間に近い外見をしている筈なのに、何か違うような。そんな雰囲気を纏った人型は言う。

「御前の名は何と」
「此方に何用かね」
「土産売場は何処だろか」


 矢継ぎ早に質問を投げ掛けてくるので、アジュール・プリズムは口を挟む暇もない。人型には敵意や悪意なく、問い質すというような態度でもなく、ただ純粋な興味だけで問うているのだろうと感じられた。
アジュール・プリズムも素直に答えた。

「アジュール・プリズムです」
「貴方を追いかけています」
「おみ おみやげ?


 些か、アジュール・プリズムは戸惑った。
 それは挨拶言葉なのか。言葉通りなのか、それとも何か別の意味を含む言葉なのか? アジュール・プリズムは、人型が何を言いたいのかを考えた。
 しかし答えは出ない。
 そもそも、この人型は何者なのか。何を目的としているのか。それすらも分からないのでは、答えなど出る筈もないとアジュール・プリズムは結論を出す。人型は、そんなアジュール・プリズムを気にするでもなく、 笠から垂れ下がる帳の向こうから視線を寄越して、言った。

「食道楽の知己に寄越す土産さね」
「アジュールはこの世界の住民なのだろう。それで御前に問うたのであるが」


 おろ、とした。侵入者が抵抗やら攻撃やら遁走やら、記録上、よくある話だった。目の前にいる人型は、そのどれでもない。ただアジュール・プリズムの返答を待っているようだった。

「手ぶらで帰ると笑われるのでな。礼は弾む」


 どちらが囚われて、どちらが異邦人なのか、分からなくなりそうな雰囲気を醸し出していた。
 人型は平然とした態度のまま。まるでアジュール・プリズムの方がおかしいような錯覚さえ覚える。
 そも。そもそもである。
 この世界に迷い込む者は、人型を成さず、意思疎通はおろか話は通じず、ただ喰らい尽くすか、破壊するか。
 しかし、この人型はどうだろう。
 笠の隙間から覗く肌は白く、尊大な態度であるものの、言葉か通じて会話も出来る。敵意や害意といったものを感じない。それどころか友好的でさえあった。

「……」


 尤も、そのタイプに擬態している可能性も、考えられるのだけれど。
 アジュール・プリズムは疑念を抱かない性質故に、その考えは浮かばなかった。

 せいぜい、随分と昔に聴いた歌を、思い出すくらいである。