RECORD
Eno.242 ミラ・レイフォードの記録
前日譚 〜爆弾娘の故郷にて〜
シュレン・レイフォードは、上機嫌で市場からの帰路についていた。
今年は大漁だったらしく、思っていた以上に新鮮で良い魚を買うことができたのだ。
(うむ。これならばどう調理しても美味であろう)
献立を考えつつ、男の腰の辺りで、赤毛の尻尾がゆらゆら揺れる。
彼は人間ではない。頭部はまさしく獣、狼のそれであり、全身は燃えるような赤い毛並みに被われていた。いわゆる獣人と呼ばれる存在だ。
2メートルを超すほどの鍛えられた体躯、そして背負った身の丈ほどもある大太刀からして、かなりの実力を持った戦士であることが見て取れる。
(ミラも喜ぶであろうな。某の腕の見せどころだ)
今は両親が諸用で家にいないため、彼は妹と二人で過ごしていた。
非常に危なっかしい性格の妹だが、兄妹仲は悪くない。むしろ、シュレンは妹を愛して常によく面倒を見ている。いつも突拍子もないことばかりされるので、心配すぎて妹離れできていない面もあるのだが。
「ミラ、帰ったぞ。良い魚が買えたが、そなたはどう……ん?」
いつも通りに家に入り、いるはずの妹に声をかける。が、すぐに彼は首を傾げた。
人の気配が無かったのだ。感覚の鋭い獣人ゆえに、奥の部屋にもいないことが分かる。
(外出か? 今日は特に用事があるとは聞いておらなんだが……)
だが。そこに来て、彼はふと、あるものに気付いた。
机の上に置かれた『兄貴へ』と書かれた紙が、その存在をこれ見よがしに主張していることに。
(…………。置き手紙。前回の時は、確か……)
ものすごく嫌な予感がしつつも、それを手に取る赤狼。
開いた手紙に書かれていたのは。

「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
「ア?」
赤狼は、5秒ほど気絶した。
そのまま泡を噴いて倒れそうになったが、ギリギリのところで持ちこたえる。数回、肩で大きく呼吸をしてから、なんとか身体を起こす。
「……ははは、いやなゆめであったな」
思いっ切り現実逃避をしながら、読み直す。……同じことが書いてある。
当たり前だが、書かれている文言は、一字一句変わることはない。現実は残酷だった。
「……………………スゥー……」
胃と頭がねじ切れるように痛み始めた。喉から漏れた音が何だったのかは、彼自身にも分からない。ただ、無意識のうちに息を大きく吸い込むと――。
「――あんのクソたわけがああああああぁぁぁ!!!!!」
赤狼の咆哮もとい悲鳴が、虚しくエコーしながら周囲に響き渡るのだった。
今年は大漁だったらしく、思っていた以上に新鮮で良い魚を買うことができたのだ。
(うむ。これならばどう調理しても美味であろう)
献立を考えつつ、男の腰の辺りで、赤毛の尻尾がゆらゆら揺れる。
彼は人間ではない。頭部はまさしく獣、狼のそれであり、全身は燃えるような赤い毛並みに被われていた。いわゆる獣人と呼ばれる存在だ。
2メートルを超すほどの鍛えられた体躯、そして背負った身の丈ほどもある大太刀からして、かなりの実力を持った戦士であることが見て取れる。
(ミラも喜ぶであろうな。某の腕の見せどころだ)
今は両親が諸用で家にいないため、彼は妹と二人で過ごしていた。
非常に危なっかしい性格の妹だが、兄妹仲は悪くない。むしろ、シュレンは妹を愛して常によく面倒を見ている。いつも突拍子もないことばかりされるので、心配すぎて妹離れできていない面もあるのだが。
「ミラ、帰ったぞ。良い魚が買えたが、そなたはどう……ん?」
いつも通りに家に入り、いるはずの妹に声をかける。が、すぐに彼は首を傾げた。
人の気配が無かったのだ。感覚の鋭い獣人ゆえに、奥の部屋にもいないことが分かる。
(外出か? 今日は特に用事があるとは聞いておらなんだが……)
だが。そこに来て、彼はふと、あるものに気付いた。
机の上に置かれた『兄貴へ』と書かれた紙が、その存在をこれ見よがしに主張していることに。
(…………。置き手紙。前回の時は、確か……)
ものすごく嫌な予感がしつつも、それを手に取る赤狼。
開いた手紙に書かれていたのは。

突然だけど、しばらく外に出てくるよ。
いくらでも命懸けの決闘できる世界があるらしくてさ。こんなスリル、機会を逃したら二度と味わえないじゃん?
てわけで、ちょっと決闘してくるね!
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
「ア?」
赤狼は、5秒ほど気絶した。
そのまま泡を噴いて倒れそうになったが、ギリギリのところで持ちこたえる。数回、肩で大きく呼吸をしてから、なんとか身体を起こす。
「……ははは、いやなゆめであったな」
思いっ切り現実逃避をしながら、読み直す。……同じことが書いてある。
当たり前だが、書かれている文言は、一字一句変わることはない。現実は残酷だった。
「……………………スゥー……」
胃と頭がねじ切れるように痛み始めた。喉から漏れた音が何だったのかは、彼自身にも分からない。ただ、無意識のうちに息を大きく吸い込むと――。
「――あんのクソたわけがああああああぁぁぁ!!!!!」
赤狼の咆哮もとい悲鳴が、虚しくエコーしながら周囲に響き渡るのだった。