RECORD

Eno.289 空木 颯斗の記録

Continued

終末後、世界に存在する人間は二種類に分かれた。
その身に星を宿す異能者ギフテッド
異能ギフトを持たない一般人ノーマル


その前まではこの二種類だった。


終末を望む者と望まない者。



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カーテンはずっと閉め切っていて暗い。
開けたら母さんが泣くから。

ここに朝も夜も無い。
ぬるい空気の中に、停滞した時間があった。








母さん、そろそろご飯にしようよ。
そんな訳にもいかないよ。
ちゃんと座って。ほら、口開けて?

一口食べられたね。
……美味しく作れなくてごめんね。
泣かないで。



「……ごめんね」




ほら。母さんはすぐ謝る。
いいのに。
大丈夫、嫌じゃないし。僕がしたくてしてるんだからさ。
僕、息子だし。


…………。
そうだ、あのね。
学校には行かない事にしたんだ。
僕が家にいた方が、母さんは安心できるでしょ。



「うれしい?」








「…………」








父さんが事故で死んでから何年か経った。
だから母さんがこうなってから、何年か経っている。
母さんは毎日死にたがる。
家に紐は置けない。母さんが首を括って死んじゃうから。
家具の角はぶつけないようにクッションを付けた。母さんが頭をぶつけて死んじゃうから。
家に刃物は置けない。母さんが首を切って死んじゃうから。


母さんはずっと起き上がれずに泣いている。
だから僕がご飯を作って、洗濯をして、掃除をした。
お金は父さんが遺しておいてくれた分があるからよかった。

母さん、どうやったら笑ってくれるかな。
今度花でも買ってこようか。
どんな花が好きなんだろ。聞いた事無かったな。








死なせてあげられなくてごめんね。
僕の家族は母さんしかいないから。
生きててほしかったんだ。
わがままな息子でごめんね。
ごめん。本当に。

泣かないで。一緒に居るからね。









母さんの笑顔を見る事が出来たのは、それからしばらく経った後。
終末の日に母さんはカーテンを開けて。
窓の外から溢れる光を見て、涙を零しながら、声をあげて笑った。


僕の事を何年か振りに、めいっぱいに抱き締めて。




「よかったね、颯斗」
「神様が許してくれたね」


「これで一緒に天国に行けるね」
「父さんに会えるね」

「よかったね」




そんな風に言った。





僕は生きていてほしかったのに。
僕は生きたかったのに。
やっと笑顔を見れたのに。

気が付いたら母さんを突き飛ばして、家を飛び出していた。


そこからの記憶はあまり無い。
僕の世界はそこで終わった。




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終末後、世界に存在する人間は二種類に分かれた。
その身に星を宿す異能者ギフテッド
異能ギフトを持たない一般人ノーマル

けれど一部の異能者ギフテッドだけは知っている。
世界にはもう一種類人間が居る。


喪失者ロスト

星に赦され、世界から解放された者。
第二世界には存在しない。
最初から”存在しなかった”事にされた人間の事を覚えている人間はどこにもいない。
再構築される前の世界を知る、異能者ギフテッドを除いて。



僕は異能者ギフテッドになった。
母さんは喪失者ロストになった。



一緒に居られなかった。









でも。

今度こそ一緒に居るんだ。
ね、叶えてくれるよね。

同じお星さまに祈ろうね。