RECORD

Eno.81 テンタティブの記録

日記-Ⅳ:一夜の夢について

こんな夢を見た。
人工的に作られたであろう無機質な薄暗く、小さな空間の中。オレは簡素な椅子に座っていた。
眼の前には大画面のスクリーンが広がっており、他愛もない映像をただ淡々と垂れ流している。

戦場でレーションを喰らう青年が前を睨む。荒れた繁華街の隅で紫煙を吐いた少女が苛立つ。
ペンライトを持った女学生が興奮気味に話す。面子を構えた少年が無邪気に笑う。
何気ない日常を一人称視点で撮った映像が、杜撰に切り取られて上映されていた。
何故かは分からないが、その景色一つ一つが不快だった。胸奥の傷に不躾に触られているような気がして、どうにも。

ふと横に目をやる。赤リボンの少女はポップコーンを抱えたまま、その映像に見入っていた。
肩まで伸びている桃色の髪。翠玉色エメラルドグリーンの瞳。耳から下がる碧色の耳輪イヤリング
映像を眺めているより、端正で愛おしい彼女を見ている方が余程有意義だろう、と思い至って。
比較して価値を決めてしまった自身に、なにより気持ちが悪い思考を巡らした自身に。心の底から嫌悪感を抱いた。

不意に、彼女の瞳がオレを見た。左耳に着いたイヤリングが、スクリーンの光に照らされて光る。
年相応な可愛らしさの中に、強かな獣を飼いならした相貌。酷く美麗で勁烈な様。
高みを目指さんと唸る野生の中に、怯えた兎を包んだ顔。牢乎でありつつも儚い様。
オレ如きでは直視するのも烏滸がましい、と感じてしまうのはきっと自分自身を愛せていないからで。
思わず自嘲気味な笑いが溢れる。自分の認識では確と愛しているはずなのに。愛しているから生きているのに。

「──── 豁サ閠??縲√↑繧薙↓繧ょ?縺九s縺ュ縺??ょア翫°縺ュ縺?s縺?繧」


具体的に何と言ったのかは分からなかった。ただ、その声を聞いた瞬間。矢が刺さったような痛みを感じた。
苦し紛れに口を開いて、言葉を紡ぐ。「分からなくたって良いお前はこんな苦しみ知らなくて良い」と。「相手の心臓に包丁突き刺すのと何が違うだから許されちゃいけないんだ。だからその傷に触れないでくれ」と。
スクリーンに映っていた青年は撃ち抜かれて死んだ。紫煙を吐いた少女は車に押し潰されて死んだ。

「──── 閾ェ蛻??鬥悶r邨槭a縺ヲ讌ス縺励>縺具シ溘??荳榊ケク縺ェ閾ェ蛻?′蜿ッ蜩?諠ウ縺ァ蜿ッ諢帙>縺具シ
 謔イ蜉??繝偵Ο繧、繝ウ豌怜叙繧九?繧ょ、ァ讎ゅ↓縺励m繧医?」


「ネモフィラにも言われたな」と考えて。しかし未だ、彼女が何と言ったのかは分からなかった。
手の届く範囲ぐらいはせめて助けたかった目の前で死んだ彼ら彼女らの顔が忘れられない」と。「黙れよ、クソ。好き勝手言いやがって見るな、やめてくれ。醜いのも傲慢なのも分かっているから」と。言葉を吐いた。
女学生は電車に轢かれて死んだ。少年は親に刺されて死んだ。スクリーンを見ずとも分かっている。なぜか、分かっている。

「──── 縺昴≧縺励?縺?→逕溘″縺ヲ縺?¢縺ュ縺??√↑繧薙*縲
 蜍晄焔縺ェ諤昴>霎シ縺ソ縺ァ縲り?蛻?′險ア縺帙?縺?°繧芽?蛻?〒蛯キ縺、縺代k縺励°縺ェ縺上※縲」

「縺縺雁燕縺ッ縺雁燕閾ェ霄ォ縺御ク榊ケク縺ァ縺ェ縺代l縺ー縲
 縺雁燕閾ェ霄ォ繧定け螳壹〒縺阪?縺?s縺?繧」


やはり、彼女が何と言ったのかは分からない。けれど。心臓を乱暴に掴まれたような苦痛に襲われた。
先程までと同じように反論しようと口を開いて、何も言えずに口を閉じる。顔を俯かせれば髪が垂れ堕ちた。
スクリーンを横目で見る。黒色の背景の上で白色の文字が流れていた。終幕エンドロールだと理解するのに時間はかからなかった。

「──── 縺雁燕縺ョ莠区ュ縺ェ繧ざ縺セ縺?谿ど知ら縺ュ縺よ、だ縺どな

「たった一人の大切な人が、苦しんでんのを!
 見て見ぬフリはできねぇだろ!!」


瞬間、顔を掴まれる。半ば強引に向けられた先で見た彼女の顔は、此方を喰らわんと唸る獣のように思えた。
何と返したのかは覚えていない。けれど、どうしようもないことを言ったことだけは覚えている。
視界の端、壁一面を覆い尽くすほどに大きなスクリーンの中。白色の文字が浮かんでいるのが見えた。

たった二文だけが、浮かんでいた。


”tentative” 或いは無辜の死神
              ──── la braise.





── いつの日か。

飾らないままに、気取らないままに。

愚直な言葉で、オレ自身の言葉で。

『     』と『    』を、伝えられたら。

胸を抉るようなこの苦しみも、消えさってくれるのだろうか。

残り火は終わりへと、変わってくれるのだろうか。