RECORD

Eno.54 アジュール・プリズムの記録

三十三基 灰

 古い薬莢のキーホルダーを両手で包み、祈るように額に押し当てる。
 灰と煙の思い出。信仰は欠け、きっと、信仰から遠い、存在に、縋るような心地だった。
 目を合わせてくれた。撫でてくれた。抱きしめてくれた。話しを聞かせてくれた。話しを聞いてくれた。教えてくれた。夜はそばにいて、朝には声をかけてくれた。わがままを許してくれた、約束してくれた。私がうれしいと、一緒にうれしくなってくれた。寂しさを慰めてくれる、穏やかな寄り添いだった。
 煙はすきじゃなかった。毒の香り、命を縮める香り。けれども、あの人の香りは、きらいじゃなかった。心地好さを教えてくれた。
 涙は流れない。流れなくて、よかったと思う。
 しくしくと泣く少女は、願っていた。祈っていた。縋っていた。祈りを捧げていた。祈り焦がれていた。
 その先が、何もないとしても。何もせずにはいられなかった。

"きみにとってのおれって" "何"


 あの時、本当の事を、言ったら。もう、会ってくれないような。本当の意味で、対話ができないような。気がして。
 悔しかった。うまく対話ができない自分が情けなかった。貴方の事を知りたかった。貴方の事を教えて欲しかった。貴方の事を知りたかった。私はまだ、貴方を知らない。
 知らないから、知りたい。
 もっと貴方を知りたい。

「      」


 恋をしているかと、問われたら。首を横に振る。
 愛しているかと、言われたら。首を横に振る。
 慕情であり、憧憬であり、親愛であり、 きっと、これは。

 愛にとても近くて、恋には少し遠い。