RECORD

Eno.54 アジュール・プリズムの記録

四百八基

ある世界。魔族と、それらを統べる王が復活した。
人類の存亡をかけた大戦は、耳長が目をかけていた火をも、悉く吹き消していった。


四百七基。戦場で耳長が建てた墓の数。
死者への言葉を刻み終えたところで、膝をついた。
焦点を当てるように、雲の合間から淡い光が差す。

人を狂わす筈の月光は、狂った耳長を正気に戻した。

後ろを見ても、前を見ても、そこにはなにも、ない。
焼け残ったなどという思い込みで、在りもしない希望を幻視していただけだ。
記録もすべて燃えてしまった。否、燃えるまでもなく、誰もいなかった。

全て悟ると、身体の末端が脆く崩れ始める。
灰耳長たちが落伍と呼んだ、物言わぬ灰と化す現象。

燃え尽きることなく、みにくい灰色のまま終わるのだと知った。
崩れていく意識の中に、不思議と後悔はなかった。
四百八基目の墓は、無かった。野ざらしの灰燼と帰すのみ。




狼煙。

色を失っていく視界の端に、見えた。気がした。
無意識に銃を手に取り、引き金を引いていた。

「ドミナニルダ」

銃弾は世界の壁を打ち砕いた。





🝤





世界の狭間ですり潰されながら、導を目指して進み続ける。
天も地も光もない混沌とした時空間を、いつかの拙い約束を頼りに己を保ち続けた。
仮に時を測れたとして、奇しくも四百八年が経った頃。
視界が開ける。





🝣







蓋が開いて六秒後のことだった。


薬莢から零れた灰燼が、風に舞い、ヒトの輪郭を成す。
それはあなたの前に降り立った。
遅れて、がしゃん、と捻じれたライフルが落ちる。

「bane showls……」「……wesperos?」

徐々にはっきりとする口元を動かし、何か、話している。不明な言語。
ぼろ、と右腕が毀れて落ちた。

「……」
「tabacim datumis mikhi?」

灰色の膚と錆色の瞳。褪せた蓬髪をかき上げて。
耳長は困ったような、それでも笑顔で、肩を竦めてみせた。