RECORD

Eno.133 噂話の記録

伝承と、ぐちゃぐちゃになった思考

その昔、澄み渡る晴れた日。
人と、怪物が出会ったという。
人は、それを恐れることもなく、優しく声をかけたという。
けれど、言葉は通じず。

だから、物を贈ることにした。
小さな花を贈りあう。
感謝、悲しみ、喜び。様々を乗せて。

怪物は孤独であった。
だから、その晴れた日の出会いは、とても素敵なものだった。

それから、暫く、人と怪物は、仲良く過ごしたという。
しかし、人の寿命は短く、気が付けば、人はそれのもとへと来なくなった。
寿命が尽きたと、人ならざるものは、知った。
だから、丘に墓を建てた。

それから、怪物は泣き続けた。
その涙は、雨となり、暫く雨が続く事となった。

いくらか時が過ぎたころ、人の声がした。
怪物は顔を上げた。とうとう、幻聴が聞こえたのかと思った。
涙はとっくに枯れてしまい、大きな水たまりがあたりにはできていた。

周囲を見てみれば、その水たまりの向こう。
人間がいた。あの人間だった。
彼は、ずっと水たまりの向こうから、怪物をみていた。
何もできないのが、とてもつらかった。

ひとりと一匹、手を伸ばし、水たまりに触れれば。
死んだはずの人間と、怪物は再会を果たし、幸せに過ごしたという。


    このお祭りではね
     雨の日には不思議な出会いが訪れて
   晴れの日には、素敵な出会いが訪れるんだよ

    ——君に素敵な出会いが訪れますよう  

いつしか、できた春のお祭り。
花に言葉を乗せて。
誰かへと思いを贈る、伝統ができたとされている。






もとより、唐猫というのは、例えばこの土地では、他の厄を持つ猫を追い払う為の罠であったとされている。

また、唐猫は、孤独な怪物だったとも。
昔は綺麗で、とても毛並みの良い猫だった。
けれどいつしか、身体は大きくなり、背には木々や花々を咲かせ、
いろんな動物に恐れられる存在となってしまった。

それが、酷く悲しく、苦しく。
なぜ自分だけが、こんな目にと、酷く運命を呪ったそうだ。
猫は、静かに祠に座り長くの時を過ごしたという。

雨の日も、嵐の日も。
全てを受け入れた猫を、
人々は、偉大なものとして畏怖するようになった。
猫に願いごとを頼めば、願いが叶えられる。そんな噂が広まった。





人であり、噂である。
都市伝説であり、願いを叶えるものである。

その性質はきっと、似ていて。



人であるのなら、僕は、水たまりの向こうから、
街をみていたのも納得がいくもの。

つまるところ。

一つこれは余談話。


僕が初めて愛した人出会い名前をくれた人、いや正確にはその人本人ではなく、入れ替わった人死んだ双子の弟の話
死んでしまったその人は、紫陽花を愛していた。
紫陽花の箱庭で。
紫陽花から祝福を受けた。
紫陽花もまた愛した。咲き続けるために生き物を養分とした。

願えば願うほど、身体に、紫陽花は咲いた。

僕の世界には、死者が願った分だけ紫陽花が咲いている。

僕は彼の、彼たちの愛したものを、願ったものを生み出しただけ。
僕の世界は、誰かの願いで出来ているようなもの。ただの真似事。
僕自身もそう。

だから


身体に生えた紫陽花は
なんだか、彼みたい。
なんだか、猫みたい。

咲いた花の数だけ、ぼくはねがいをかなえてあげなくちゃ?
それだけ望まれてるのなら。

願いを叶えて満たしたい。
生きるためには、飢えを満たしたい。


ああ。いつもどおり。
ぼくは、せいじょうだ。


ネコから渡されたものは、ほんの少しの魔力。
馴染んで溶けて消えていった。
小さな噂話。逸話。
ネコのような存在しか知らないような。

噂話が、死者に会える存在なら
噂話が、死者と生者を入れ替える存在なら
噂話が、人になったのなら。


ネコが会いたい人になれるのだろうな。
僕は、もしかしたら、伝承に出てきたニンゲンなのかもしれない。


だって、水たまりの奥にいましたから。
だって、貴方を見てましたから。


「僕」は「ひと」
「いきかえった」「ひと」

あるいは

「怪物と同じになったひと」

しきと、こたえ。

ひとりぼっちの怪物に会いに行かなくちゃ。

ねがいをかなえてあげなくちゃ。
また、あいたい、ってねがいごと。
最初に咲いた、紫陽花は、きっとあなたのねがいごと。



全部、刷り込みの間違った式だって気がつけない。













ぼくのだいじって、どれだっけ