RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

Record:ルチル:5

多分初め興味が湧いたのは、端末で音が好きだから眺めていた料理動画から。
その次は、『Belka/Strelka』 から届く料理意外の食事処を認識してから。
父母はどちらも食べ物に関心がある人でなかったし。
『Belka/Strelka』 の送ってくる食事はいつだって完璧だ。
バランスに優れていて。
かみごたえがあって。

「タブレット?」



「そんなわけないだろ」



ちゃんとしたご飯だ。
パンや米。野菜や肉。
それが丁寧に整形されて、栄養バランスを考えた上で出てくる。
それがまとめパックとなって、暖かい状態で、毎日決まった時間に。
余分はなく、あまりもなく。
人によって量まで調整されているのだから、『Belka/Strelka』の管理能力の高さを想像している。


「それでも、人はより、おいしさを求める」



厳格な『Belka/Strelka』の食事は決して悪いものではなかったが。
食にこだわりのない両親に初めて連れて行かれた食事処。
注文をして、奥から聞こえてくる音は動画で聞いた音候だった。

胸踊る、楽しくて愉快な音。

それが食べ物を組み立てるための美味しい音だと、点と点が繋がった気分だった。
そうやって白い皿に乗せられて出てきたもの。


「わあっ…!」



なんて、声を上げて、多分その時の自分はこれ以上ないくらい目を輝かせてたんだろう。
ゴツゴツ大きいハンバーグ。デミグラスソースがかかっている。
揚げられたポテトは細いもの。塩がちょっと多めにかかってる。
まんまる丸いプチトマト。レタスの布団に寝かされてる。
タコさんの形のウインナー。可愛らしく顔がかかれてる。
色鮮やかな赤のチキンライスに旗が刺さっている。
なんて定番のスタイルか。

お子様ランチに舌鼓を大人のように打つ。
見た目も味も、大満足。


「………」



「俺も、あれがやりたい」



刻む音、作られるプレート、憩いの場。
そう、憩いの場。
食べている人たちの顔や話はみんなのんびりとしているように伺えて。

多分、そう言うのに憧れた。
fictionの向こうでは派手なものに憧れて。
nonfictionは、穏やかを望んでいる。

どこまでも変わりがないようだ。





ある程度の料理の知識、を、さらに伸ばしていく。
伸びた分、使う器具は『Belka/Strelka』から支給品して与えられる。
どの人間もそうだ。伸び代だけ『Belka/Strelka』は評価と、それにあったものを支給してくれる。
使われていなかった、けれどあった台所の埃は取り除かれた。

そうして何年もがたち。


『仕事はどうされますか?」



「はい。私は、飲食店を開きたいと思います」



「素晴らしい」




飲食店は飲食店でも。

あの憩いの場のようなところが欲しいから。


──喫茶店を、選択した。