RECORD
Eno.8 スフェーンの記録
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◆
幼少期、高学年あたりの頃から、時折耳鳴りがひどくなることがあった。
高い高い空の上から、耳元に甲高い音が聞こえるような感覚。
ひどい耳鳴りだけど、一瞬で鳴り止む。
それを不思議な現象のように、抱えていた。
人には誰にも言わなかった。
健康診断で引っかかったことはないから、これもまあ、問題ないのだろう。
そう思っていた。
年々回数がまして。
特に、空が開かれた時に聞こえる気がするの。
鈍感だから、気がつくまではまだ少し。
◆
喫茶店。
流行りの店になるつもりは毛頭なく。
この都市では稼ぎ、と言うものは必要がなかった。
人間たちはあくまで種の保存を命じられている。
種の保存と、種の紡いだ歴史の保存。
過去のアーカイブを年として成立させ、それをサイクル化し、残すのが仕事である。
つまりは、都市機械の定めている範囲である仕事さえしていれば、生活は必ず保証されている。
仕事の真似事。
それをしていれば、必ず。
──種の歴史保存をおこなえているなら。
だからある意味趣味にも近い。
高い天井は広々とした印象を。
くるくる回る換気扇。
カウンター席を多めで、自分が客と話しやすいように。
逆にテーブル席は、日向の当たる窓側で、自分から離れている位置に。
各それぞれの憩いの場。
話に花が咲く中で、それの合間、美味しいものが食べられるように。
焼く音。
煮込む音。
豆を擦る音。
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◆
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その中で、一際綺麗な人が来店した。
顔が綺麗、だとかそう言うわけではなくて、歩き方がなんとなく、綺麗な人だった。
彼女はこちらを見れば、軽く会釈して、日向の先へと一人座っていた。
お冷とお手拭きを運んで、お連れ様がいらっしゃいますかと尋ねたら、いいえ、と首を横に張っている。
ブロンドが光を浴びて、揺れてキラキラ輝いていた。
その日は本当に運命だったんじゃないかって思うくらい、人が来ていない日だった。
と言うよりは、お昼も過ぎて3時ごろだったんだけども。
そんな時間に、煮込みハンバーグをください、なんて言われて少し面食らってしまった。
間違い無いですか、と思わず尋ねてしまうくらいに。
ハンバーグ。
自分の好きな料理でもあった。
あのお子様ランチのハンバーグを食べてからと言うもの、すっかりずっと好きな食べ物だ。
ゴツゴツとした肉感あるハンバーグ。自分の手で使っているから、ちょっと大きめとは評判だ。
トマトをちょっと多めに加えて、酸味がよく効いたソースできのこや玉ねぎと一緒にコトコト煮込んで。
しっかり味が染み渡ったそれを深皿に移して、パセリをかければ完成。
赤いお皿を、彼女の前に差し出した。
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よほどお腹が空いていた──思い返せば、ただよく食べる子なだけだったけど。
勢いよく食べ勧めながら。
噛み締めるように時折目を細めて。
カウンターの向こうから眺めていた自分に向かって、美味しいです! !なんて、力強く力説する彼女を、見ていた。
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その顔も、その輝きも、未だ鮮明に覚えていた。
◆
その後も彼女はこの店に通い詰めていた。
毎回頼むメニューが異なったけど、どれも美味しそうな顔で食べていた。
その顔を毎度眺めながら、あの顔が毎日見られたらいいな、と、思って。
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付き合ってからが長かったけどね。
Record:ルチル:6
「喫茶エルツ」
「エルツ、というのは、古い言葉で鉱物を指す」
「………」
「石ころのように普遍的であることを忘れないように」
「もしも人気の店になっても、その心を忘れず天狗にならないように」
「そのつもりだったんだけど」
「このときからもう、そういう運命だったんだろうな」
◆
幼少期、高学年あたりの頃から、時折耳鳴りがひどくなることがあった。
高い高い空の上から、耳元に甲高い音が聞こえるような感覚。
ひどい耳鳴りだけど、一瞬で鳴り止む。
それを不思議な現象のように、抱えていた。
人には誰にも言わなかった。
健康診断で引っかかったことはないから、これもまあ、問題ないのだろう。
そう思っていた。
年々回数がまして。
特に、空が開かれた時に聞こえる気がするの。
鈍感だから、気がつくまではまだ少し。
◆
喫茶店。
流行りの店になるつもりは毛頭なく。
この都市では稼ぎ、と言うものは必要がなかった。
人間たちはあくまで種の保存を命じられている。
種の保存と、種の紡いだ歴史の保存。
過去のアーカイブを年として成立させ、それをサイクル化し、残すのが仕事である。
つまりは、都市機械の定めている範囲である仕事さえしていれば、生活は必ず保証されている。
仕事の真似事。
それをしていれば、必ず。
──種の歴史保存をおこなえているなら。
だからある意味趣味にも近い。
高い天井は広々とした印象を。
くるくる回る換気扇。
カウンター席を多めで、自分が客と話しやすいように。
逆にテーブル席は、日向の当たる窓側で、自分から離れている位置に。
各それぞれの憩いの場。
話に花が咲く中で、それの合間、美味しいものが食べられるように。
焼く音。
煮込む音。
豆を擦る音。
「幼少期の思い出と言うのは根深くて」
「あの喫茶店は最高だったと言う思いで、中内装とメニューを考えた」
「その地区でしか流行らないような店だったけど」
「リピーター…顔見知った人は、何回も、何人も来てくれていたよ」
◆
「……」
その中で、一際綺麗な人が来店した。
顔が綺麗、だとかそう言うわけではなくて、歩き方がなんとなく、綺麗な人だった。
彼女はこちらを見れば、軽く会釈して、日向の先へと一人座っていた。
お冷とお手拭きを運んで、お連れ様がいらっしゃいますかと尋ねたら、いいえ、と首を横に張っている。
ブロンドが光を浴びて、揺れてキラキラ輝いていた。
その日は本当に運命だったんじゃないかって思うくらい、人が来ていない日だった。
と言うよりは、お昼も過ぎて3時ごろだったんだけども。
そんな時間に、煮込みハンバーグをください、なんて言われて少し面食らってしまった。
間違い無いですか、と思わず尋ねてしまうくらいに。
ハンバーグ。
自分の好きな料理でもあった。
あのお子様ランチのハンバーグを食べてからと言うもの、すっかりずっと好きな食べ物だ。
ゴツゴツとした肉感あるハンバーグ。自分の手で使っているから、ちょっと大きめとは評判だ。
トマトをちょっと多めに加えて、酸味がよく効いたソースできのこや玉ねぎと一緒にコトコト煮込んで。
しっかり味が染み渡ったそれを深皿に移して、パセリをかければ完成。
赤いお皿を、彼女の前に差し出した。
「……」
「……彼女は、それを見て、嬉しそうに笑いながら」
「それまでのイメージとはぜんぜん違う、私服の幼い笑みで」
「いただきますと手を合わせた」
よほどお腹が空いていた──思い返せば、ただよく食べる子なだけだったけど。
勢いよく食べ勧めながら。
噛み締めるように時折目を細めて。
カウンターの向こうから眺めていた自分に向かって、美味しいです! !なんて、力強く力説する彼女を、見ていた。
「吸い込まれるように」
「……」
「一目惚れだったんだと思う」
その顔も、その輝きも、未だ鮮明に覚えていた。
◆
その後も彼女はこの店に通い詰めていた。
毎回頼むメニューが異なったけど、どれも美味しそうな顔で食べていた。
その顔を毎度眺めながら、あの顔が毎日見られたらいいな、と、思って。
「…….」
「夢みたいなとんとん拍子で結ばれた」
付き合ってからが長かったけどね。