RECORD
それから ~ シーズン1終了
そして早々に『契約の義勇団』と『ひと繋ぎの架け橋』両方の冒険者仲間たちから懇々と説教される羽目になった。
いや、分かっていた、そもそもの原因の発端はわたしにあるし、あろう事か異世界生活を楽しんでしまったわけだから、説教される事は分かっていた。
やっと説教から解放されたかと思えば、今度は件の訓練場に誠心誠意を込めた謝罪をする羽目になった。
まさか土下座をする事になろうとは……幼少期以来だぞ、わたしがこの姿勢を取ったのは……。
いや、これも元々はわたしのせいだから、思いはするだけで口には出さないが。というか出せない。口が裂けても。
謝罪も済んだところで、わたしはようやく、本当にようやく解放されて、現在は疲れ果ててベッドの上で倒れていた。
精神的な疲労ってこういう事か……今一度改めて実感している。したく……なかったなぁ……。

「……はぁ……」
思わずため息が出た。
今回の件は全て、わたしの好奇心による自業自得である。
けれど。

「……楽しかったな。剣闘試合……」
後悔は、不思議と無かった。
これが噂の『反省はしているが後悔はしていない』という事か。
そんなしょうもない思考はさっさと追い払って、代わりにあの島での日々を思い返した。
無期限の滞在は大変だが、一時的な滞在にはとても寛容だった世界。
倫理観こそ問われるが、誰もが合法的に本気を出せる試合形式。
生き物用から無機物用まで幅広く取り揃えられていた、美味しい料理の数々。
そして、……本来ならば出会う事さえ無い、全く別の世界で生きる者たちとの交流。
こんな貴重な体験、もう二度と味わえないんだろうな。
そう思ってしまって、わたしの心は少し切なくなった。
そうしてベッドで休んでいると、扉を数回叩く音がした。
それから間も無くして、一人の少女が扉を開けて入ってくる。鍵、閉め忘れていたな……まぁいいか。

「やっ」
声がした方を向けば、入ってきたのはミント……ミンティア・フレーバリングだという事がわかった。
彼女はわたしが所属する『契約の義勇団』の統率者をしていて、普段はわたしが彼女を支えつつ、他の仲間たちを引っ張っていっている。
そんなわたしたちは、つい最近結成したばかりの、この世界においては新米冒険者一行だ。

「お疲れ様、モルギリオン」
ミントが労いの言葉をかけてきた。

「あ、ああ……ミント殿。……うむ……」
正直、気まずい。
縁の下の力持ちであるわたしが居なくなって、ミントやシオンたちはどれだけ大変だったんだろう。
そんな苦労も考えず、わたしは……自分の欲望を優先してしまった。

「……その。……今回は本当に、迷惑をかけたな……」
これでもう何度目か、わたしは謝罪を口にした。

「ううん。無事だったからいいよ。私は許す。でも……」
代わりに。
そう言いながら、ミントはわたしの方へやって来て、ベッドの縁に座り込んだ。

「どんな異世界だったか、私に教えてくれる?」
彼女の口は、綻んでいた。

「――……正に、モルギリオンの技能を存分に発揮できる世界だったんだね」
ミントはわたしの話を、実に楽しそうに聞いていた。

「そうだな、色々な武器を存分に振るえたから……中にはユニークな武器もあって面白かったぞ」
ちなみに『ユニークな武器』の詳細は割愛した。
酒瓶とか卜ソワァ―とか言っても分からないだろう。特に後者。

「モルギリオン、いっぱい楽しめた?」
首を傾げながら問いかけるミントに、わたしは。

「ああ、いっぱい楽しんでしまったな。おかげで帰るのがすっかり遅くなってしまった」
赤裸々に、そう答えた。
実際、帰れそうな手段は早くに分かっていた。
けれども、あの世界で過ごすうちに、むしろ元の世界へ帰る事が惜しくなってしまって……。

「丁度、最初のシーズンが終わるところだったから。帰るなら今しかないと……それくらい、楽しかった」
オフシーズンまでのんびり過ごしていたら、むしろ永住権の方を購入してしまっていたかもしれない。
流石にそれでは本末転倒だし、目的が逆転してしまうので、名残惜しくもこうして帰って来たのだ。
行方不明者として、いつまでも心配をかけさせるわけにはいかないしな。
――わたしが答えてから、少しの間だけ、静かな時が流れて。

「実はね」
ミントが再び口を開いた。

「私、こことその世界の通行を繋げちゃった」

「…………………………えっ?????」
今なんと?????

「えっと、ミント殿? それはどういう……」

「言葉の通りだよ。あの扉を魔法で弄って、モルギリオンが『帰ろう』って思った時にちゃんと元の世界に帰って来られるようにしたんだ。そのための魔法をちょっと覚えた」

「ちょっとで覚えられる魔法ではなくないか?????」

「えっへん。私はやればできる子。覚えようと思えば覚えられる。実際、この魔法のおかげで、モルギリオンは帰って来られたんだからね?」

「そ、そうだったのか……どおりで何やら引き寄せられているような気がしたが」
正直、わたしはこの世界のマトモな説明ができなかったわけで。
メルクト殿が「案外何とかなる」と言ってはいたが、あまりにも抽象的すぎて『これ変な場所に着くのでは?』と不安になっていた。
しかし途中から、何かに引き寄せられるように移動していって……。
そして引き寄せられた先で降りた時、最初にわたしが好奇心から開けた扉がそこにあったのだ。
もしやと思ってその扉をもう一度開けた時、ミントと……恐らくミントと一緒に探してくれて、わたしが扉を開けるのを待っていたサバイバーが、向こう側に居たのだったな。
この一連の現象は、ミントが色々やってくれた結果起きたモノだった、という事は理解した……が。

「い、いや待て? 訓練場の運営たちは許可を出したのか?」

「それは『いざとなったら私が全責任を取る』って条件で取ってきた。ぶいっ」

「待て待て待て待てせめてわたしにも責任を取らせてくれ? 事の発端はわたしなのだから」

「うーん、今度一緒に行ってお願いしてみる?」
わたしが現を抜かしている間にそんな個人的な契約をしていたとか申し訳なさすぎる。
確かに『契約の義勇団』は彼女が統率者だが、そんな真っ黒な空気にはさせたくない。わたしが。
近いうち、できれば明日にでもお願いしに行こう。わたしは強く、そう思った。
それでこの話はまとめて。

「………………という事は。わたしがまたあの扉を開けた先の世界に行っても、今度はいつでも帰って来れるという事か?」

「うん。何なら今度は、私も一緒に行っていい? 勿論、闘技者として」
わたしの土産話を聞いたミントは、すっかり興味津々だ。
魔法使いの彼女なら、やはり『マジックワンド』かな。
しかし、あの魔法の杖はフォークとしても使えるようだし……その場合は『スピア』か『棒』……いや、『トライデント』が一番近いか?
凄いな、使用できる武器がやたら多いおかげで、彼女も無理なく剣闘試合を楽しめそうだ。

「ちゃんとみんなに『フラウィウスに行ってくる』って伝えれば、これからは行方不明者として扱われないはずだしさ」

「まぁ、これからは旅行に行く感覚になるだろうな」

「ちなみにあの扉がある場所にちゃんと壁面看板も付けといたから」

「用意周到すぎないか?????」

「分かりやすいかと思って」

「実際助かる。わたしはつい好奇心で開けてしまったからな!」
あの訓練場は、あらぬ噂から一転、腕試し向きの旅行先がある――という事で大人気になりそうだな。
最も、まずそこに辿り着けるかどうかで篩にかけられそうな気もするが。
わたしの人生は正しく波乱万丈であったが、それでも前へ前へ、進み続けた先で出会えた仲間たちが愛おしい。
ルーチカ、ヒフミ、ヤコ、ケンセイ……それから。

「君と出会えた事が、改めて奇跡だと思うよ」

「本当にね。……何だっけ、ええと。確か――」

「“Elen sila lumenn omentielvo.”」

「“Elen sila lumenn omentielvo.”」
(ミンティア・フレーバリング……Illustration by いちかわ様)