RECORD

Eno.877 フルールの記録

1:鏡の国より ≪1≫

海に落ちるとは、きっと、こういうことなのだろう。





支えのない体は前のめりに落ち。
てっきり鏡を割ってしまうかと思い、目を瞑ったが。
その次に、痛みは来なかった。

「…?」



おそる、おそる、と。閉じた眼を開ける。
目の前に広がっていた光景は――なんだろう、これは?

真っ白い景色、に、あちらこちらに浮かんでいるのは、"鏡"。
所狭しに並び浮かんでは、何故かぶつからず、映っているのは"ウサギ"。
私は地に足をつけられず、この変な空間で逆さまに浮かんだまま。

「・・・」

落ち着いて、顔、肩、足を触る。異常なし。
落ち着いて、数を数える。1,2,3…異常なし。
落ち着いて、息を吸う。吐く。…異常、なし。


「…こういう、場合、って…試しに…こう?」



とりあえず逆さまの姿勢は落ち着かないので、身体を動かし、真っ直ぐに正す。
そうして、右を見るも、左を見るも、鏡ばかり。自分が今しがた出てきた?入ってきた?鏡がどれかも、分からなくて。

「…死んだ?」



な、ワケがない、よね。こんなにも視界や意識がはっきりしているわけじゃないだろうし。
この状況を、どう脱したらいいだろうか。スタンダム様に心配をかけてしまうどころか迷惑も…

「あ、あの~…」


「…うん?」


「こっち、こっち、です!」



こっち…と言われ、つい、そちらを向いてしまった。女の子の声だった。

「…貴方は…」



そこにいたのは、白い服を着た――人様ひとさまだった。