RECORD
Eno.184 スアードの記録
"幸運"
・登場する主な人物
ハサマル:武家の青年でスアードのご主人 当時21歳。『』の台詞
ヤーセミン:スアードと同じ日、先に買われた奴隷
ゴロヴ:近隣の村で人買いに売られた子供
===================================
大陸の南方、砂漠と駱駝な感じの国にあるグリアラと言う街。
その一角にある商館で、精悍な顔つきの青年が一つ商談をまとめ終わった。
すぐに帰る気配が無いのを見て取った奴隷商は、すかさず再度声をかける。
「ところでハサマル様、もう一人いかがでしょう。
お安くなっております。」
眉間に皺をよせる。
『……まあ、見るだけ見ようか。』
朝市の野菜売りならともかく、人を取り扱う奴隷商の方からこの売り文句を口に出す事はまず無い。
父の代から付き合いのある商人だ。
買って絶対に損をするような取引を持ちかける事は無いと思うが……
などと腕組みをして考えていると、年端もいかない女の子が商人に連れられてやって来た。
沈む夕陽のような瞳。
黒髪は整えれば見映えがするだろう。
痩せてはいるが患っている感じではない。
「はじめまして……名前はゴロヴです。」
『おや、男の子だったか?』
ゴロヴと名乗った子が首を横に振る。普通なら男につける名前だ。
怯えてる様子はあるが、挨拶はちゃんと出来ている。
『国境の孤児か?』
「いえ、親から買い受けました。」
『遠くの子じゃなさそうだが……』
『帰りたくないか?』
後半は少女に向けて。
「それは、無いです。」
彼女自身の口で、元の家を否定する。
やはり扱いは良くなかったと見える。
『……もう少し、話を聞きましょう。』
少女に微笑みを見せて、下がらせてから話を続ける。
「ありがとうございます。
お買いになったヤーセミンが、ここでよく面倒を見てた子でして………」
話をするに商人も、親元に置く方が良くないと見て
普段は取り扱わない年齢のこの子を買い受けたのだと言う。
子供も産まれて、家の中は間違いなく忙しくなる。
なのでもう一人見繕うつもりはあったのだ。
少し幼すぎるので完全に渡りに船とまでは言えないが、この子の事情に首を突っ込んだ以上、それを無視して
他に誰か家仕事の即戦力になるような奴隷を相場通りの値段で……という気もほぼ失せていた。
===================================
『それじゃあ、二人はこれからうちでお手伝いをしてもらう。
あー……ヤーセミン(ジャスミン)はいいとして、
名前はどうする?≪五番目の男≫でいいのか?
それとも新しい名前、欲しいか?』
商館で知り合いになったヤーセミンと一緒で少し安心したのか、
本当に今の名前が嫌だったのか、挨拶の時よりかなり元気よく言う。
「はい、欲しいです! ご主人様!」
多分覚えたばっかりの”ご主人様”を微笑ましく思いつつ、
それじゃあ……と名前を考える。
『────"スアード"。幸せや幸運って意味の名前だ。
ちゃんと女の子だけにつける名前だし、これからきっといい事があるからな。』
「スアード……ありがとうございます。とても、良いです。」
ゴロヴと比べりゃ何つけてもマシにはなるだろう、と気楽につけたが
思った以上に喜んでいるようだった。
『そりゃよかった。早く慣れておけよ。
スアードって呼ばれてきょとんとしてたら、あまり賢くない子に見られちゃうぞ。』
新たに氏族の一員となった子供たちとそんな事を話しながら、
郊外の我が家へと帰って行った。
スアードの育った村からさほど離れてもいない場所ではあったのだが、
手伝いが大変な日も、休日を与えた日も、彼女がそこに帰ろうとすることは無かった。
ハサマル:武家の青年でスアードのご主人 当時21歳。『』の台詞
ヤーセミン:スアードと同じ日、先に買われた奴隷
ゴロヴ:近隣の村で人買いに売られた子供
===================================
大陸の南方、砂漠と駱駝な感じの国にあるグリアラと言う街。
その一角にある商館で、精悍な顔つきの青年が一つ商談をまとめ終わった。
すぐに帰る気配が無いのを見て取った奴隷商は、すかさず再度声をかける。
「ところでハサマル様、もう一人いかがでしょう。
お安くなっております。」
眉間に皺をよせる。
『……まあ、見るだけ見ようか。』
朝市の野菜売りならともかく、人を取り扱う奴隷商の方からこの売り文句を口に出す事はまず無い。
父の代から付き合いのある商人だ。
買って絶対に損をするような取引を持ちかける事は無いと思うが……
などと腕組みをして考えていると、年端もいかない女の子が商人に連れられてやって来た。
沈む夕陽のような瞳。
黒髪は整えれば見映えがするだろう。
痩せてはいるが患っている感じではない。
「はじめまして……名前はゴロヴです。」
『おや、男の子だったか?』
ゴロヴと名乗った子が首を横に振る。普通なら男につける名前だ。
怯えてる様子はあるが、挨拶はちゃんと出来ている。
『国境の孤児か?』
「いえ、親から買い受けました。」
『遠くの子じゃなさそうだが……』
『帰りたくないか?』
後半は少女に向けて。
「それは、無いです。」
彼女自身の口で、元の家を否定する。
やはり扱いは良くなかったと見える。
『……もう少し、話を聞きましょう。』
少女に微笑みを見せて、下がらせてから話を続ける。
「ありがとうございます。
お買いになったヤーセミンが、ここでよく面倒を見てた子でして………」
話をするに商人も、親元に置く方が良くないと見て
普段は取り扱わない年齢のこの子を買い受けたのだと言う。
子供も産まれて、家の中は間違いなく忙しくなる。
なのでもう一人見繕うつもりはあったのだ。
少し幼すぎるので完全に渡りに船とまでは言えないが、この子の事情に首を突っ込んだ以上、それを無視して
他に誰か家仕事の即戦力になるような奴隷を相場通りの値段で……という気もほぼ失せていた。
===================================
『それじゃあ、二人はこれからうちでお手伝いをしてもらう。
あー……ヤーセミン(ジャスミン)はいいとして、
名前はどうする?≪五番目の男≫でいいのか?
それとも新しい名前、欲しいか?』
商館で知り合いになったヤーセミンと一緒で少し安心したのか、
本当に今の名前が嫌だったのか、挨拶の時よりかなり元気よく言う。
「はい、欲しいです! ご主人様!」
多分覚えたばっかりの”ご主人様”を微笑ましく思いつつ、
それじゃあ……と名前を考える。
『────"スアード"。幸せや幸運って意味の名前だ。
ちゃんと女の子だけにつける名前だし、これからきっといい事があるからな。』
「スアード……ありがとうございます。とても、良いです。」
ゴロヴと比べりゃ何つけてもマシにはなるだろう、と気楽につけたが
思った以上に喜んでいるようだった。
『そりゃよかった。早く慣れておけよ。
スアードって呼ばれてきょとんとしてたら、あまり賢くない子に見られちゃうぞ。』
新たに氏族の一員となった子供たちとそんな事を話しながら、
郊外の我が家へと帰って行った。
スアードの育った村からさほど離れてもいない場所ではあったのだが、
手伝いが大変な日も、休日を与えた日も、彼女がそこに帰ろうとすることは無かった。