RECORD
Eno.184 スアードの記録
彼女等の一日 未明~早朝
・主な登場人物 ()内はこの記録時の数え年
スアード(10) 奴隷3年目 寝相が悪い方
ヤーセミン(13) スアードと同じ日に買われた、相部屋の奴隷 寝起きが悪い方
ハサマル(24) スアードのご主人
リーン(24) ハサマルの妻 この年第二子を授かる。
ハシム(4) ハサマルの長男
ニザール(1) ハサマルの次男
ハッサン(32) 古参のマムルーク騎兵 女受けが良い
モッサン(32) 古参のマムルーク歩兵 子供受けが良い
====================================
グリアラ近郊の集落にある中堅アミール(徴税権と旗下の部隊を持つ、ざっくり言うとお武家さん)の家に買われて3年。
奴隷としての日々は、大変な事もあるけど
生家の母に脅されたほどに過酷なものでも、惨めなものでもなかった。
「お姉ちゃん、朝だよ、水汲み行くよー」
正確にはまだ太陽は昇り始めたばかりの明け方。
一日の最初の仕事は水汲みから始まる。
『うーん……もうちょっと……』
「あ、サソリ。」
爪でヤーセミンの太ももをちくり。
『ぴゃい??!!!』
飛び起きる。
「やっと起きたね。早くいかないと朝ごはん間に合わないよー。」
『もー……サソリの妹を持った覚えはないよー……。』
そもそも本物の姉妹じゃないけど、ここで同じ部屋に暮らして3年、
自然とお姉ちゃんと呼ぶようになっていた。
水を二往復分汲んで来たら、そのまま朝食の準備。
アミールの家は出動してない限り、朝食後すぐに調練が始まるので朝は皆しっかり食べる。
=================================
【水汲みが終わったら ファルシのルシをパーージッ!!!!】
料理番のおばあさんの指揮が飛ぶ。
お年寄りに総じてよくある事だけど、大陸どこでもある程度通じる帝国語ではなく、コテコテの南方語でしゃべる。
『「はい、ファルシのルシをパージ!」』
お姉ちゃんと私はそんな指示も慣れたもので、
昨日水に浸しておいたサヤスジマメのスジを剥いていく。
「ファルシのルシをパージ………???」
料理当番の新兵さんも居るのだが、
まだコテコテ南方語に慣れてなさそう。
見様見真似で籠に入っているサヤスジマメのスジを取ろうとするが、上手くいかない。
【違う、昨日マフガットしておいたファルシのルシをパージ!!!!】
この豆の筋は強靭で、一晩水でふやかしてから剥く。
再度干すとさらに強くなり、結び紐として使ったり、小銭の穴に通してまとめるのに使ったりできる。
サヤも食べられるので、豆はスープに入れ、サヤはおばあさんが刻み、挽き肉と合わせて炒める。
それからインジェラを焼いたり、
付け合わせや汁ものを調理したり、早く起きてきた人に先に食べ物を出したり……
「スアード、ハシムを頼めるー?」
リーン奥様の声。
「はい、今行きまーす。」
私の場合は頃合いを見て、ハシム坊ちゃんの食事を手伝う。
タイミングが合えば奥様がやるが、産まれたてのニザール坊ちゃんにかかりきりな事が多い。
「あら、半分は上手に食べれてますね。机が綺麗なまま。」
そこを奥様に褒めて欲しかったけど、スアードが気付いたならまあいいや、と言った感じでフフンと鼻を鳴らす。
お母さんを弟君に取られてご機嫌斜めになりがちな坊ちゃんをなだめるのは、
歳も比較的近いからか大人達よりも私の方が得意だった。
「坊っちゃん、手が止まってますが
ハッサンが残りを狙ってますよ。」
「ハッサンは(そんな事)しないよ。」
「じゃあモッサンが狙ってます。」
「モッサンはする。」
取られまいと再度匙を口に運び出す坊っちゃん。
「待て、扱いひどないか!!?」
モッサンの声がする。
奴隷と言う身分を考えると、大仕事を任されているのかも知れない……が、
数えの4歳児にあの手この手でご飯を食べさせる大変さを前に、責任について考える余裕など無い。
大体の人が食べ終えて、坊ちゃんの手伝いを終えたら、私達の食べる番。
そこでまず朝の仕事は一区切りとなる。
スアード(10) 奴隷3年目 寝相が悪い方
ヤーセミン(13) スアードと同じ日に買われた、相部屋の奴隷 寝起きが悪い方
ハサマル(24) スアードのご主人
リーン(24) ハサマルの妻 この年第二子を授かる。
ハシム(4) ハサマルの長男
ニザール(1) ハサマルの次男
ハッサン(32) 古参のマムルーク騎兵 女受けが良い
モッサン(32) 古参のマムルーク歩兵 子供受けが良い
====================================
グリアラ近郊の集落にある中堅アミール(徴税権と旗下の部隊を持つ、ざっくり言うとお武家さん)の家に買われて3年。
奴隷としての日々は、大変な事もあるけど
生家の母に脅されたほどに過酷なものでも、惨めなものでもなかった。
「お姉ちゃん、朝だよ、水汲み行くよー」
正確にはまだ太陽は昇り始めたばかりの明け方。
一日の最初の仕事は水汲みから始まる。
『うーん……もうちょっと……』
「あ、サソリ。」
爪でヤーセミンの太ももをちくり。
『ぴゃい??!!!』
飛び起きる。
「やっと起きたね。早くいかないと朝ごはん間に合わないよー。」
『もー……サソリの妹を持った覚えはないよー……。』
そもそも本物の姉妹じゃないけど、ここで同じ部屋に暮らして3年、
自然とお姉ちゃんと呼ぶようになっていた。
水を二往復分汲んで来たら、そのまま朝食の準備。
アミールの家は出動してない限り、朝食後すぐに調練が始まるので朝は皆しっかり食べる。
=================================
【水汲みが終わったら ファルシのルシをパーージッ!!!!】
料理番のおばあさんの指揮が飛ぶ。
お年寄りに総じてよくある事だけど、大陸どこでもある程度通じる帝国語ではなく、コテコテの南方語でしゃべる。
『「はい、ファルシのルシをパージ!」』
お姉ちゃんと私はそんな指示も慣れたもので、
昨日水に浸しておいたサヤスジマメのスジを剥いていく。
「ファルシのルシをパージ………???」
料理当番の新兵さんも居るのだが、
まだコテコテ南方語に慣れてなさそう。
見様見真似で籠に入っているサヤスジマメのスジを取ろうとするが、上手くいかない。
【違う、昨日マフガットしておいたファルシのルシをパージ!!!!】
この豆の筋は強靭で、一晩水でふやかしてから剥く。
再度干すとさらに強くなり、結び紐として使ったり、小銭の穴に通してまとめるのに使ったりできる。
サヤも食べられるので、豆はスープに入れ、サヤはおばあさんが刻み、挽き肉と合わせて炒める。
それからインジェラを焼いたり、
付け合わせや汁ものを調理したり、早く起きてきた人に先に食べ物を出したり……
「スアード、ハシムを頼めるー?」
リーン奥様の声。
「はい、今行きまーす。」
私の場合は頃合いを見て、ハシム坊ちゃんの食事を手伝う。
タイミングが合えば奥様がやるが、産まれたてのニザール坊ちゃんにかかりきりな事が多い。
「あら、半分は上手に食べれてますね。机が綺麗なまま。」
そこを奥様に褒めて欲しかったけど、スアードが気付いたならまあいいや、と言った感じでフフンと鼻を鳴らす。
お母さんを弟君に取られてご機嫌斜めになりがちな坊ちゃんをなだめるのは、
歳も比較的近いからか大人達よりも私の方が得意だった。
「坊っちゃん、手が止まってますが
ハッサンが残りを狙ってますよ。」
「ハッサンは(そんな事)しないよ。」
「じゃあモッサンが狙ってます。」
「モッサンはする。」
取られまいと再度匙を口に運び出す坊っちゃん。
「待て、扱いひどないか!!?」
モッサンの声がする。
奴隷と言う身分を考えると、大仕事を任されているのかも知れない……が、
数えの4歳児にあの手この手でご飯を食べさせる大変さを前に、責任について考える余裕など無い。
大体の人が食べ終えて、坊ちゃんの手伝いを終えたら、私達の食べる番。
そこでまず朝の仕事は一区切りとなる。