RECORD
Eno.184 スアードの記録
彼女等の一日 朝
・主な登場人物 ()内はこの記録時の年齢
スアード(10) 奴隷3年目
ヤーセミン(13) スアードと同じ日に買われた、相部屋の奴隷
クルスーム(47) ハサマルの父で現アミール 徐々に息子に引継ぎ中。
ハッサン(32) 古参のマムルーク騎兵
モッサン(32) 古参のマムルーク歩兵
=================================
『それじゃあ、お勉強頑張ってね。』
朝食後の休憩を終えて、日時計で言うと9時ぐらいからヤーセミンとは別行動。
ヤーセミンは引き続き、料理番のおばあさんの手ほどきを受けながら
朝ごっそり消費されたインジェラの補充や昼食の準備をする。
「うん、またあとでね。今日は何するんだっけ。」
『オフチョベット……』
「力仕事だね……お疲れ様。」
私はと言うと、その日手の空いている大人の誰かから
お昼まで読み書き計算、地理などを教えてもらう。
ご主人様のお父さんであるクルスーム様や、最近肘の具合が悪くてフルで調練に参加出来ないハッサンが主な先生だ。
「スアード、指導を始めるぞ。」
ハッサンが今日は朝から調練に出ていたので、自然と今日はクルスーム様の番となる。
「はい、お願いします。クルスーム様。」
「まずは前回のおさらい。それぞれの貨幣の名前と価値、覚えとるかな。」
巾着袋から金、銀、銅の貨幣が計5種類。
「まず一番価値の低いのが銅貨で、穴が開いてないのが帝国で流通してるアス、
真ん中に穴が開いてて、紐を通せるのが東方で作られたモーン。
一枚の価値は大体一緒で、まともにご飯を食べようとしたら3枚は要ります。」
クルスーム様が頷く。
「銅貨よりちっちゃい銀のコインがシリングで、大体銅貨10枚分です。
グリアラの安い宿が素泊まり1シリングだよー、って呼び込みしてました。」
「もう一つの銀貨……私の小指ぐらいの銀棒がオールドシリング、オシリとかオリンとか略されてます。
約10シリングですが、古くからあるので欠けや割れが多いです。
あとモッサンが一度呑みに行くと1オシリ消えるそうです。」
「支払いの際におつりが出ない時なんか、欠け割れのオシリがあった方が便利な時もあるな。
それにしても飲み過ぎじゃあやつ。」
「ふふ、うちでもまだ量をセーブしてるんですかね。
あと最後の金貨がデナルです。
大体50シリングですけど………あんまり感覚がわきません。」
「スアードぐらいの歳の子でデナルをポンポン使う子がおったら異常も異常じゃからな。今はそれでいい。その内分かるようになるといいな。
で、今回は……掛け算の練習ついでに、実際にそのお金を使ってお仕事をしてみよう。
兵士の週給を一人分ずつ、机に分けて並べていってくれ。
まずは1シリング×7。」
7シリングを机に並べる。
「もう三人分、1シリング×7。」
「これじゃダメです?」
3割ほど欠けたオシリを1個、机に置こうとする。
「確かに価値は同じかも知れんが、使う側の気持ちになってみ?」
「あ、確かに。そうですね……。」
納得して1シリングを7枚にする。
「次は2シリング×………」
給料×日数の掛け算をして、お金を並べて……結構な人数の分の週給が並んだ。
3シリング5アス×7を並べる時にちょっと手こずったぐらいだ。
「あとは……6シリング×5。」
「かける5……ハッサン?」
「……ほう、どうしてそう思った?」
「今週二日調練を休んだの、ハッサンぐらいかなと。
今週は二回、ハッサンの授業がありましたし。」
「なるほど、察しがいい子じゃな。
でも、誰に配る給料か、わざわざ名前を伏せている所でも何か察してくれるとなお良いぞ。」
「あっ……そうですね、すみません。」
何がすみませんなのかきちんと理解していた訳ではないが、
お金の事を良く知らないのに、お金の生々しいところに首を突っ込んでしまった事に何となく気付いた。
「いやいい。私がそこまで考えることはないだろうと高をくくってた所もあるし、
良く学んでる証拠よ。ハッサンには知らないふりをしておけよ。
じゃあ最後にモッサン、6シリング×7。」
「そこは隠さないんですね。」
「もう日給が同額ってだけで、モッサンのだと察するじゃろうが。」
「それはもう、名前出さなくても分かりますよね。」
そう言って笑ったところで、そろそろお昼の時間なので今日の勉強はお開き。
スアード(10) 奴隷3年目
ヤーセミン(13) スアードと同じ日に買われた、相部屋の奴隷
クルスーム(47) ハサマルの父で現アミール 徐々に息子に引継ぎ中。
ハッサン(32) 古参のマムルーク騎兵
モッサン(32) 古参のマムルーク歩兵
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『それじゃあ、お勉強頑張ってね。』
朝食後の休憩を終えて、日時計で言うと9時ぐらいからヤーセミンとは別行動。
ヤーセミンは引き続き、料理番のおばあさんの手ほどきを受けながら
朝ごっそり消費されたインジェラの補充や昼食の準備をする。
「うん、またあとでね。今日は何するんだっけ。」
『オフチョベット……』
「力仕事だね……お疲れ様。」
私はと言うと、その日手の空いている大人の誰かから
お昼まで読み書き計算、地理などを教えてもらう。
ご主人様のお父さんであるクルスーム様や、最近肘の具合が悪くてフルで調練に参加出来ないハッサンが主な先生だ。
「スアード、指導を始めるぞ。」
ハッサンが今日は朝から調練に出ていたので、自然と今日はクルスーム様の番となる。
「はい、お願いします。クルスーム様。」
「まずは前回のおさらい。それぞれの貨幣の名前と価値、覚えとるかな。」
巾着袋から金、銀、銅の貨幣が計5種類。
「まず一番価値の低いのが銅貨で、穴が開いてないのが帝国で流通してるアス、
真ん中に穴が開いてて、紐を通せるのが東方で作られたモーン。
一枚の価値は大体一緒で、まともにご飯を食べようとしたら3枚は要ります。」
クルスーム様が頷く。
「銅貨よりちっちゃい銀のコインがシリングで、大体銅貨10枚分です。
グリアラの安い宿が素泊まり1シリングだよー、って呼び込みしてました。」
「もう一つの銀貨……私の小指ぐらいの銀棒がオールドシリング、オシリとかオリンとか略されてます。
約10シリングですが、古くからあるので欠けや割れが多いです。
あとモッサンが一度呑みに行くと1オシリ消えるそうです。」
「支払いの際におつりが出ない時なんか、欠け割れのオシリがあった方が便利な時もあるな。
それにしても飲み過ぎじゃあやつ。」
「ふふ、うちでもまだ量をセーブしてるんですかね。
あと最後の金貨がデナルです。
大体50シリングですけど………あんまり感覚がわきません。」
「スアードぐらいの歳の子でデナルをポンポン使う子がおったら異常も異常じゃからな。今はそれでいい。その内分かるようになるといいな。
で、今回は……掛け算の練習ついでに、実際にそのお金を使ってお仕事をしてみよう。
兵士の週給を一人分ずつ、机に分けて並べていってくれ。
まずは1シリング×7。」
7シリングを机に並べる。
「もう三人分、1シリング×7。」
「これじゃダメです?」
3割ほど欠けたオシリを1個、机に置こうとする。
「確かに価値は同じかも知れんが、使う側の気持ちになってみ?」
「あ、確かに。そうですね……。」
納得して1シリングを7枚にする。
「次は2シリング×………」
給料×日数の掛け算をして、お金を並べて……結構な人数の分の週給が並んだ。
3シリング5アス×7を並べる時にちょっと手こずったぐらいだ。
「あとは……6シリング×5。」
「かける5……ハッサン?」
「……ほう、どうしてそう思った?」
「今週二日調練を休んだの、ハッサンぐらいかなと。
今週は二回、ハッサンの授業がありましたし。」
「なるほど、察しがいい子じゃな。
でも、誰に配る給料か、わざわざ名前を伏せている所でも何か察してくれるとなお良いぞ。」
「あっ……そうですね、すみません。」
何がすみませんなのかきちんと理解していた訳ではないが、
お金の事を良く知らないのに、お金の生々しいところに首を突っ込んでしまった事に何となく気付いた。
「いやいい。私がそこまで考えることはないだろうと高をくくってた所もあるし、
良く学んでる証拠よ。ハッサンには知らないふりをしておけよ。
じゃあ最後にモッサン、6シリング×7。」
「そこは隠さないんですね。」
「もう日給が同額ってだけで、モッサンのだと察するじゃろうが。」
「それはもう、名前出さなくても分かりますよね。」
そう言って笑ったところで、そろそろお昼の時間なので今日の勉強はお開き。