RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

Record:スフェーン:2

「生まれた時の記憶なんてもんは当然持ってねえ」



「あいにく、俺は普通の人間だ」



「……」



「普通の人間だと思うよ」




取り上げられた赤子はある年齢に達するまで、居住区ですらないところで育てられる。
幸福たれ。祈りであれ。人の育みをか祝福たれ。
大切に一日中、マザーの監視に晒されている。
歩行、言語取得、年齢相応、ある程度の知識。
“異能”をもつ子供達には信号も番号も振られないから、自力で習得するしかなく。
だからこそ自然であるのかも知れないが。

そこから出た先の記憶しか、自分にはない。
訂正するならば、そこから出て数年後の記憶しか自分にはない。
“居住区”にて。
4.5歳の頃の記憶が、初めだった。





「………」



思えば、あの空間は年月が曖昧であって、なんの季節かもよくわかっていない。
ただ時間の経過は確かにあった。
誕生日は教えられていて。

名前もまた教えられていて、そう呼ばれていた。


自分の名前。誰もが名前。

ちょっとした疑問は子供の哲学。


「マザー」



「俺と他の子の名前が違うのはなんで?」



「それはきみがきみだという証拠だからですよ」



「それはつけてもらったもの」



「大切にして、善く過ごしましょうね」




簡単な会話だった。



誰に?をその時には聞けなくて。

後日尋ねることとなる。