RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

“アルクス・アーリゥム”

走れ。


走れ。走れ。走れ。



マザーにバレないように、こそっと抜け出してるから。
そのうち捕まるのかも知れないが、逃げて、逃げて。
逃げるように走っている。

走るたびに、自分たちは世間から隔離されていることに気がついた。
街は整備されていて、建物は均等に立っている。
街を行く人は大人ばかりに思えた。
自分より背が高くて、骨格がしっかりしていて。
働く人、店を楽しむ人、談笑する人。学校は本当にあるらしい。


それらを見るたびに、眺めるたびに、隔離されていることと。
ああきっと、星の声も聞こえないし、変な力もないのだろう。
普通。



自分が異物である、そんな自覚が生えて。

ああでも、誰か助けてくれるって。

だれか、たすけてくれるって、

おれのことを、






「あ、」






◆取り替え子とは










お前のことだ!






びっくりするくらい見知った顔の子供だ。

毎日鏡で見る顔の、子供だ。

子供と言っても、思春期と呼ばれる時期の少年の姿をしている。

だから、自分と全く同い年ということで。


同じだった。


なんだよ、その目。






──目があった。
片目と両目がぶつかった。

彼のそばに母親らしき人がいて。

お互いにぼんやり眺めながらも。


そのまま、すれ違っただけだ。






◇取り替え子とは






俺のこと。








「fiction」





「nonfiction」






「俺は架空の存在で、宙に浮いていた」




きっと居住区の子供達は、みんな置き換えられている。



ああ、じゃあ、どうすりゃ、助かるんだ。
マザーは信用できなくて、親の元には俺がいる。
出演者はきっとああなって、あとは死ぬ未来だけが広がっている。
そうじゃないのに。
外には大人がたくさんいるらしい。

おかしいから。


みんなは、このあと来る、子供達は、俺はなんかもういいや。






「………」




「目」





「…….目は、すごいから」




「全部ひっくり返せるって、マザー言ってたから」





「………」







すんなり腑に落ちて、落ち着いて、役割がわかったから。帰ることにした。









アルクスは俺に与えられた名前だと、嫌というほどわかった。

あれがアルクスと呼ばれているのだろうことが、酷く悲しかった。


じゃあ俺は誰なんだろうか。


俺は、誰なんだろうか。

あれがnonfictionの実在で、自分は架空のfictionでしかなく。

ただ話に乗せられて、皿の上で踊ってたみたいで。


もうじゃあ、食べられるまで足掻いて踊るかって。


それで誰かが助かるなら、それは、嬉しいことだから。