RECORD

Eno.81 テンタティブの記録

日記-Ⅴ:南席、その死闘について

「助かるよ、やっぱり戦場の空気に一番近いのは…ちゃんと殺気も何もを向けられてる時だから。」

「前に言った気もするけど…どうしてもあたしのしていることは死に近づいて行く事だ。
 ……親しかろうがなんだろうが、多分嫌なんだろうねって思う。
 決めた生き方だし、もちろんそんなすぐに……向こう数十年死んでやる気もないんだけど……」


持ち上げられた獲物を見ていた。
久しぶりに肌を伝った、心地よい殺意を感じていた。

「生きてる間に重ねる名誉が、名誉の死が、あたしのひとつの生き様だから。」


どこか残念に思っている自分を見ていた。
死んだ後に名誉が成るなんて虚しいものだ、とぼんやり考えている自分が居た。

五度の死闘は存外楽しかった。
魅せる事を意識せず、ただ相手を穿つために武具を振るう感覚には滾るモノがあった。
皮を斬り、肉を断ち抜いては骨を叩く。視線が交わる瞬間に見た眼が昔を思い出させた。
殺意と闘志と狂気、それに沸き立つ心と脳髄。口角がグイ、と上がるのが分かって。

どこか冷静な自分は「やはり彼女を遠ざけておいて良かった」と安堵していた。
── それが何を生む可能性があるか、なんて少し考えれば分かっただろうに。


「簡単に死んでやんないから。」


死闘の後、巨躯たる桃兎ボーパルバニーはそう言った。
酷く安心した。行き急ぐ者じゃない事にホッとした。
戦場を舞う者だろうが、空に輝く月だろうが、呪具を扱う悪友だろうが。
それがどんな者であろうが人の死を感じるのは御免だ。これはいつまでも変わらない。

いつまで経っても。どこまでいっても変わらないのだろう。



「…………」


机の上に乗った紙。持って、それをもう一度読み返せば。

「……死を恐れぬ獣は、死を克服した獣は」


握りつぶしてポシェットの中へ。

「其れは獣に非ず。空にも飛べず、ただ地の底へ墜ちるのみ」


椅子から立ち上がる。

「其れにさせてたまるものか」


扉が閉まる音が鳴る。部屋の中には誰も居ない。