RECORD

Eno.276 リベレの記録

点検:徒手空拳



素手だから点検とかないけど。

僕の出身の世界での格闘ゲームには
ここと同じように武器を持ってもいい何でもありのルールのものもある。
それは、もちろんVRのゲームだからで、痛みも何もない世界だからだ。
でもだからこそ、純粋に格闘の技量を競い合えた。

父はそんなゲームの世界で、小さな少女のアバターを使って
ナショナルチャンピオンに上り詰めたことがある。
武器を持たず、身一つで相手の懐に潜り込み
連撃を叩きこむインファイト・スタイル。

そんな父の試合のアーカイブを見て、僕はこうなりたいとは思わなかった。
父がプロゲーマーとして生きていくために、
どれだけの努力をしたか知っていたから。

僕の世界のVRの設備では、実際に歩いたり走ったり、身体を動かしてプレイする。
(健康器具メーカーが開発に携わったからだ)
父はゲームのデータ的な攻略の他に、
パフォーマンスを発揮するための肉体作りや、体力維持に努めていた。
まあつまりほとんどアスリートだった。

僕はプロになろうとは思っていなかった。
ただのユーザーとして、上辺の楽しさだけを享受していた、普通の高校生で。
だけど……今、僕はリアルで武器を握って闘うことを選んで、
この闘技場で生きていくことを選んで。
そして、無手でも試合に向かう。

父に会えたら聞きたいことが、認めてもらいたいことがたくさんできた。
でもどうか、応援してもらえたら、と思う。
同じ道を歩もうとしているのだから。