RECORD

Eno.81 テンタティブの記録

幕間:序章の終わり方について

── 筆を動かしている。便箋に文字を綴っている。
フラウィウスに居た際に思い立った一つばかりの忘れ物。終わらせられなかった物。
目を盗んで密かに密かに書いていた。伝えたい事を綴っていた。今も、船に揺られながら書いている。

最後、自身の名前を書いて。


「……っし、終わッた終わった。
 これで書きてぇ事は全部書けた、かね」


一息吐いて安堵して。
念のため、もう一度読み直して。


「…………」


「マズい、これ思ってたよりかなりこっ恥ずかしいぞ……」


思ってたより恥ずかしかった。
えっ何この実質ラブレターみたいな手紙。アイツに見られるの? マジ?
本当に嫌すぎる。誰か助けてくれ。クソッ誰だこれ書いたのは。僕じゃねぇか馬鹿野郎。
は? これどうしろってんだよマジで。見せたくなさすぎる。救いの手とかねぇの???


「……まぁ、うん。書いたのは僕だし。
 これぐらいは伝えるって決めたし覚悟決めねぇとな……」


………………………………。

「ンな覚悟決めたくねぇよ馬鹿がよ~~……!!」


助けてくれ、本当に。マジで。
そもそもこれして誰が得するってんだよ。分かってる分かってんだよアイツだよクソ。
晒し上げられたらどうしようかね。死ぬしかねぇんじゃねぇかな。死ぬか。
ロ-プの準備をしておこう。もしくは練炭。もしくは手ごろな海。もしくはetc.


「……分かってる」「分かってるだろ、僕」
「自分がしたいからやってんだ」「自分がしたいから書いてんだ」

「どんなにこっぱずかしくても」「どんなに死にたくなっても」
「後悔はしないはずだ」「コレを伝えられたら、後悔はしないはずだ」


「── 覚悟決めろ、僕」



ふらり、立ち上がった。
揺られて揺れて、海を見る。碧くて暗い海を見る。
窓の奥を見れば、綺麗な月が浩々と光っていた。アイツみたいに美しい月。
あの日、飛んで空から見た満月を思い出している。あの世界に行ったらもう一回してもらおう。

扉を開けた。
ほんの数分席を外しただけだけれど、アイツはきっと怖がっているはずだから。
さっさと戻って近くに居てやろう。頭でも撫でてやれば少しは落ち着くだろうかね。
その前に席を外したことを許してもらわないとな。要求された事でもしてやれば良いかな。

── 思考の大半が貴方で埋め尽くされている。
── 行動の大半が貴方の為になっている。
── 存在の価値、その大半を貴方に委ねている。

貴方を愛している事を再確認している。心の底から。


「……カカ、」



小さく漏らして、部屋を出た。
右耳から垂れた翠玉が光っている。左手薬指のエメラルドが輝いている。
前を向いている。前を向いている。ずっとずっと前だけを見ている。

序章の終わりを感じている。

──── la braise.