RECORD
Eno.8 スフェーンの記録
finale:interview
──彼らにとって“最終回”というのは、処刑日である。
断頭台に首を静かにもたげて、ただその時を粛々と待つのが、彼らにとっての“最終回”である。
いいや、静かに、何てものとは縁がなく、縁もなく、程遠い1日であった。
彼らにとって、初めで最後の狂騒を叫ぶ日である。
「町中を舞台とした追いかけっこ」
「町中、というのは、本当に町中であった」
「中央都市セレシオン全体に、敵である彼らは乗り込む」
「そういう筋書きである」
実際は、人の住んでいない町の端、そこでせき止められて、住むところには辿り着けないが。
「fictionが、一瞬だけnonfictionとなる」
──そして、帰結する。
彼らは、所詮fictionであるのだと。
◇
「──その日だけ、敵側の役者は、あの居住区の子どもたちは、世界と触れ合うことができる」
その日だけ、だった。
その日だけが、唯一無二であった。
役者に選ばれたとて、彼らは、結局、“撮影所”として作られた空白の街に閉じ込められている。
それは確かに街である。
それは確かに、生活ができる場所だった。
が、空白であるし、空っぽである。
舞台用のセットは、いくら見てくれを整えたて人がいなければただのハリボテだろう。
食品が詰め込まれた食料販売店。
撮影外の服が詰め込まれた洋服屋。
彼のかつて営んでいた喫茶店が模された宿舎軒、“撮影スタジオ”の一角。
たった4人のために作られた造り物の街に、造りもの4人が暮らしている。
キャラクターにとっては間違いなく現実の街だった。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
役者にとっての非現実に彼らは飲み込まれている。
役名だけ公開されて、役者名はどこにも書かれてない。
それは正義側とて同じことだった。
「でも向こうは、保障されている」
「存在を認知されていて、この後も人生が続くのだろう」
「マザーのお気に入りたち」
なんて、嫌な言い方。
お気に入りたちはマザーの手足の代わりだ。
品行方正、世界の普通。
『Belka/Strelka』の見本品。
『Belka/Strelka』の望む人間に、価値を与えている。
『Belka/Strelka』の作る世界の守り手たち。
世界の運営者と、その社員。
「普通の世界で生きながら、『Belka/Strelka』の最も近くで働くことのできる、名誉高い人々」
「ボーナスだって弾むらしい」
名誉こそ高けれど、しかし。
毎日の自由を謳歌せし街中の一員の1人に変わりはない。
閑話休題。
「居住区の子どもたちの末路は、役者になるか、星の声に壊されて出演者になるか」
「そのどちらかしかなく、そのどちらも死に帰結する」
揺籠の中で安心した暮らしを。
それがこの世に生まれたサービスだから。
それを味わい尽くせば肥えている。
肥えたものは不必要。
「豚のように食えはしない」
処分。
でもそんな利用価値がないのはもったいがないから、慈悲深く最後に世界に認知させている。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
醜く加工された姿は、世界の敵でしかないのだった。
何も知らずに死んでいく。
大抵が、『Belka/Strelka』に、マザーに謝罪の声を上げている。
謝罪会見は自責の念に塗れて大盛り上がり。
フラッシュを焚く音がする。
輝きなんて鈍っているのに。
「──」
「── 『Belka/Strelka』の本体は町の中に」
「わかりやすく町の中心に」
「かつて、世界には電波塔というものがあって、そこから通信のためのそれを送っていたらしい」
「同様かは知らないが、『Belka/Strelka』にとっても、そこが1番、見やすいのかもしれない」
足らないことだらけ。想像をしている。
想像をしながら、想像の先を思い描いている。
星の声を聞いて、星の声を聞いて、集めて、理解している。
言葉と言葉を繋ぎながら、想像で埋め立てている。頭も目も痛いが、居住区の天井が開くのは今日が最後だ。
扉が開くのは、明日が最後だ。
──明日が最後だった。
◆
「いくならスフェーンがいいと思うよ。1番足が速いし」
「企業側は知っての通り3人だ。おそらく、3人以上は出してこない」
「わからないけれど。倒れた敵幹部を見たことがあるよ。けれど、それ以上は出てこなかった」
「そのシリーズも、こちら側は負けていたけど」
「……」
「もう少し、見ておけばよかったな、特制」
「結構好きだったんだよ。…ただ、秘密だけど、敵側の方が好きだったんだ」
「……」
「嫌な理由だけど、必死だったからかもしれないね」
「僕たちの人生は、『Belka/Strelka』の下で公平に運営されていて、穏やかで、波がない」
「ただそれは、波を起こすものが全て排除されていたからなんだろう」
「…それが、小さい子どもであってもね」
「…」
「僕はね、ただ、私利私欲として、妻のいるところに戻りたい」
「君が何をするか、何ができるのかを聞かずに、ただ乗りしている」
「ひどいだろう。酷い人間だよ、僕は」
「でも君は、誰かのために行くんだろう。こんなことを言っても」
「……だから、それに協力したい」
「何も戦わずに、欲しいものが手に入るとは思わないからね」
「後悔ないようにな。スフェーン」
◇
「プラスで。今回はハロームっていうイレギュラーが急に入ったからか、こちら側が1人多く、向こうが1人少ないわ」
「だいたい4人だけど、今年は3人で計画されてたみたい」
「運がいいわねー、ラッキーガール?ラッキーボーイ?」
「向こうだって、星からの力に対して対抗する武器の取り扱いを学ぶのに結構時間、かかるみたいだもの」
「…ま、あんたはその力は一回二回しか使えないんでしょ。なら、本気で戦うあいつらと戦う頭数には入れられない」
「あんたは力なしってこと!」
「ばっかみたい、失敗するわ、こんなの」
「無理!無駄!あはは、傑作だわ」
「無駄な抵抗にも程がある。それだったら、無気力に何もせずにはい降参しますで首を取られた方がまだ、華やかじゃない分、『Belka/Strelka』の虚をつけるのに!!」
「バッカばかしい、あーあ、頭いた、ああ」
「どうでもいいわ、どうでもいい、あんたの理想なんて木っ端微塵なんだから」
「あたし頭が痛くて仕方ないの、早く死にたいの、巻き込まないで、クソ」
「…」
「いい。あと、あそこの喫茶店。明日のどこかの時間で爆破されるわよ」
「仕方ないから、教えてあげる」
「ハロームも、カルミアも、あんたも、おまえも」
「勝手に生きるといいんだわ。あたしは死ぬ」
「あたしだけ生き残らさせたら許さないから。後追いしてやるから」
「嫌ならせいぜい歯軋りして勝つといいんだわ」
◇
「………」
「◾️◾️◾️◾️」
「……アルクス!」
「……もう、しっかりしてよ」
「……」
「今回さ。何だか、多分、イレギュラーばっかりなんだろうね」
「ハロームっていう、普通のところ、からきた、イレギュラーに」
「ダリアっていう、企業側に回収されて育ってたイレギュラー」
「……アルクスもそう。一回も能力を見せたことがないまま出演してる出演者、なんて、変だよ」
「力もさ」
「…」
「私は変じゃないから」
「私だけ、変じゃないから」
「私だけ、何にもイレギュラーは、持ってない」
「ただ偶然に、運良く、星の声で変にならなかっただけで──」
「………」
「私、ずっと“足手纏い”なんだ」
昔言ってしまった言葉が、今になって跳ね返ってきた。
◇
──そうして、死んでいるし、負けた。
断頭台に首を静かにもたげて、ただその時を粛々と待つのが、彼らにとっての“最終回”である。
いいや、静かに、何てものとは縁がなく、縁もなく、程遠い1日であった。
彼らにとって、初めで最後の狂騒を叫ぶ日である。
「町中を舞台とした追いかけっこ」
「町中、というのは、本当に町中であった」
「中央都市セレシオン全体に、敵である彼らは乗り込む」
「そういう筋書きである」
実際は、人の住んでいない町の端、そこでせき止められて、住むところには辿り着けないが。
「fictionが、一瞬だけnonfictionとなる」
──そして、帰結する。
彼らは、所詮fictionであるのだと。
◇
「──その日だけ、敵側の役者は、あの居住区の子どもたちは、世界と触れ合うことができる」
その日だけ、だった。
その日だけが、唯一無二であった。
役者に選ばれたとて、彼らは、結局、“撮影所”として作られた空白の街に閉じ込められている。
それは確かに街である。
それは確かに、生活ができる場所だった。
が、空白であるし、空っぽである。
舞台用のセットは、いくら見てくれを整えたて人がいなければただのハリボテだろう。
食品が詰め込まれた食料販売店。
撮影外の服が詰め込まれた洋服屋。
彼のかつて営んでいた喫茶店が模された宿舎軒、“撮影スタジオ”の一角。
たった4人のために作られた造り物の街に、造りもの4人が暮らしている。
キャラクターにとっては間違いなく現実の街だった。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
役者にとっての非現実に彼らは飲み込まれている。
役名だけ公開されて、役者名はどこにも書かれてない。
それは正義側とて同じことだった。
「でも向こうは、保障されている」
「存在を認知されていて、この後も人生が続くのだろう」
「マザーのお気に入りたち」
なんて、嫌な言い方。
お気に入りたちはマザーの手足の代わりだ。
品行方正、世界の普通。
『Belka/Strelka』の見本品。
『Belka/Strelka』の望む人間に、価値を与えている。
『Belka/Strelka』の作る世界の守り手たち。
世界の運営者と、その社員。
「普通の世界で生きながら、『Belka/Strelka』の最も近くで働くことのできる、名誉高い人々」
「ボーナスだって弾むらしい」
名誉こそ高けれど、しかし。
毎日の自由を謳歌せし街中の一員の1人に変わりはない。
閑話休題。
「居住区の子どもたちの末路は、役者になるか、星の声に壊されて出演者になるか」
「そのどちらかしかなく、そのどちらも死に帰結する」
揺籠の中で安心した暮らしを。
それがこの世に生まれたサービスだから。
それを味わい尽くせば肥えている。
肥えたものは不必要。
「豚のように食えはしない」
処分。
でもそんな利用価値がないのはもったいがないから、慈悲深く最後に世界に認知させている。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
醜く加工された姿は、世界の敵でしかないのだった。
何も知らずに死んでいく。
大抵が、『Belka/Strelka』に、マザーに謝罪の声を上げている。
謝罪会見は自責の念に塗れて大盛り上がり。
フラッシュを焚く音がする。
輝きなんて鈍っているのに。
「──」
「── 『Belka/Strelka』の本体は町の中に」
「わかりやすく町の中心に」
「かつて、世界には電波塔というものがあって、そこから通信のためのそれを送っていたらしい」
「同様かは知らないが、『Belka/Strelka』にとっても、そこが1番、見やすいのかもしれない」
足らないことだらけ。想像をしている。
想像をしながら、想像の先を思い描いている。
星の声を聞いて、星の声を聞いて、集めて、理解している。
言葉と言葉を繋ぎながら、想像で埋め立てている。頭も目も痛いが、居住区の天井が開くのは今日が最後だ。
扉が開くのは、明日が最後だ。
──明日が最後だった。
◆
「いくならスフェーンがいいと思うよ。1番足が速いし」
「企業側は知っての通り3人だ。おそらく、3人以上は出してこない」
「わからないけれど。倒れた敵幹部を見たことがあるよ。けれど、それ以上は出てこなかった」
「そのシリーズも、こちら側は負けていたけど」
「……」
「もう少し、見ておけばよかったな、特制」
「結構好きだったんだよ。…ただ、秘密だけど、敵側の方が好きだったんだ」
「……」
「嫌な理由だけど、必死だったからかもしれないね」
「僕たちの人生は、『Belka/Strelka』の下で公平に運営されていて、穏やかで、波がない」
「ただそれは、波を起こすものが全て排除されていたからなんだろう」
「…それが、小さい子どもであってもね」
「…」
「僕はね、ただ、私利私欲として、妻のいるところに戻りたい」
「君が何をするか、何ができるのかを聞かずに、ただ乗りしている」
「ひどいだろう。酷い人間だよ、僕は」
「でも君は、誰かのために行くんだろう。こんなことを言っても」
「……だから、それに協力したい」
「何も戦わずに、欲しいものが手に入るとは思わないからね」
「後悔ないようにな。スフェーン」
◇
「プラスで。今回はハロームっていうイレギュラーが急に入ったからか、こちら側が1人多く、向こうが1人少ないわ」
「だいたい4人だけど、今年は3人で計画されてたみたい」
「運がいいわねー、ラッキーガール?ラッキーボーイ?」
「向こうだって、星からの力に対して対抗する武器の取り扱いを学ぶのに結構時間、かかるみたいだもの」
「…ま、あんたはその力は一回二回しか使えないんでしょ。なら、本気で戦うあいつらと戦う頭数には入れられない」
「あんたは力なしってこと!」
「ばっかみたい、失敗するわ、こんなの」
「無理!無駄!あはは、傑作だわ」
「無駄な抵抗にも程がある。それだったら、無気力に何もせずにはい降参しますで首を取られた方がまだ、華やかじゃない分、『Belka/Strelka』の虚をつけるのに!!」
「バッカばかしい、あーあ、頭いた、ああ」
「どうでもいいわ、どうでもいい、あんたの理想なんて木っ端微塵なんだから」
「あたし頭が痛くて仕方ないの、早く死にたいの、巻き込まないで、クソ」
「…」
「いい。あと、あそこの喫茶店。明日のどこかの時間で爆破されるわよ」
「仕方ないから、教えてあげる」
「ハロームも、カルミアも、あんたも、おまえも」
「勝手に生きるといいんだわ。あたしは死ぬ」
「あたしだけ生き残らさせたら許さないから。後追いしてやるから」
「嫌ならせいぜい歯軋りして勝つといいんだわ」
◇
「………」
「◾️◾️◾️◾️」
「……アルクス!」
「……もう、しっかりしてよ」
「……」
「今回さ。何だか、多分、イレギュラーばっかりなんだろうね」
「ハロームっていう、普通のところ、からきた、イレギュラーに」
「ダリアっていう、企業側に回収されて育ってたイレギュラー」
「……アルクスもそう。一回も能力を見せたことがないまま出演してる出演者、なんて、変だよ」
「力もさ」
「…」
「私は変じゃないから」
「私だけ、変じゃないから」
「私だけ、何にもイレギュラーは、持ってない」
「ただ偶然に、運良く、星の声で変にならなかっただけで──」
「………」
「私、ずっと“足手纏い”なんだ」
昔言ってしまった言葉が、今になって跳ね返ってきた。
◇
──そうして、死んでいるし、負けた。