RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

finale:interview

──彼らにとって“最終回”というのは、処刑日である。
断頭台に首を静かにもたげて、ただその時を粛々と待つのが、彼らにとっての“最終回”である。
いいや、静かに、何てものとは縁がなく、縁もなく、程遠い1日であった。
彼らにとって、初めで最後の狂騒を叫ぶ日である。


「町中を舞台とした追いかけっこ」

「町中、というのは、本当に町中であった」

「中央都市セレシオン全体に、敵である彼らは乗り込む」

「そういう筋書きである」


実際は、人の住んでいない町の端、そこでせき止められて、住むところには辿り着けないが。


「fictionが、一瞬だけnonfictionとなる」


──そして、帰結する。
彼らは、所詮fictionであるのだと。





「──その日だけ、敵側の役者は、あの居住区の子どもたちは、世界と触れ合うことができる」

その日だけ、だった。
その日だけが、唯一無二であった。

役者に選ばれたとて、彼らは、結局、“撮影所”として作られた空白の街に閉じ込められている。
それは確かに街である。
それは確かに、生活ができる場所だった。
が、空白であるし、空っぽである。
舞台用のセットは、いくら見てくれを整えたて人がいなければただのハリボテだろう。
食品が詰め込まれた食料販売店。
撮影外の服が詰め込まれた洋服屋。
彼のかつて営んでいた喫茶店が模された宿舎軒、“撮影スタジオ”の一角。
たった4人のために作られた造り物の街に、造りもの4人が暮らしている。
キャラクターにとっては間違いなく現実の街だった。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
役者にとっての非現実に彼らは飲み込まれている。
役名だけ公開されて、役者名はどこにも書かれてない。

それは正義側とて同じことだった。

「でも向こうは、保障されている」
「存在を認知されていて、この後も人生が続くのだろう」
「マザーのお気に入りたち」

なんて、嫌な言い方。

お気に入りたちはマザーの手足の代わりだ。
品行方正、世界の普通。
『Belka/Strelka』の見本品。
『Belka/Strelka』の望む人間に、価値を与えている。
『Belka/Strelka』の作る世界の守り手たち。
世界の運営者と、その社員。

「普通の世界で生きながら、『Belka/Strelka』の最も近くで働くことのできる、名誉高い人々」

「ボーナスだって弾むらしい」

名誉こそ高けれど、しかし。
毎日の自由を謳歌せし街中の一員の1人に変わりはない。

閑話休題。

「居住区の子どもたちの末路は、役者になるか、星の声に壊されて出演者になるか」

「そのどちらかしかなく、そのどちらも死に帰結する」

揺籠の中で安心した暮らしを。
それがこの世に生まれたサービスだから。
それを味わい尽くせば肥えている。
肥えたものは不必要。

「豚のように食えはしない」

処分。

でもそんな利用価値がないのはもったいがないから、慈悲深く最後に世界に認知させている。
カメラ、撮影、フィルム、きりとられ、画角、整えられて、魅せつける。
醜く加工された姿は、世界の敵でしかないのだった。

何も知らずに死んでいく。
大抵が、『Belka/Strelka』に、マザーに謝罪の声を上げている。
謝罪会見は自責の念に塗れて大盛り上がり。
フラッシュを焚く音がする。
輝きなんて鈍っているのに。

「──」

「── 『Belka/Strelka』の本体は町の中に」

「わかりやすく町の中心に」

「かつて、世界には電波塔というものがあって、そこから通信のためのそれを送っていたらしい」
「同様かは知らないが、『Belka/Strelka』にとっても、そこが1番、見やすいのかもしれない」

足らないことだらけ。想像をしている。
想像をしながら、想像の先を思い描いている。


星の声を聞いて、星の声を聞いて、集めて、理解している。
言葉と言葉を繋ぎながら、想像で埋め立てている。頭も目も痛いが、居住区の天井が開くのは今日が最後だ。
扉が開くのは、明日が最後だ。

──明日が最後だった。





「いくならスフェーンがいいと思うよ。1番足が速いし」
「企業側は知っての通り3人だ。おそらく、3人以上は出してこない」
「わからないけれど。倒れた敵幹部を見たことがあるよ。けれど、それ以上は出てこなかった」
「そのシリーズも、こちら側は負けていたけど」

「……」
「もう少し、見ておけばよかったな、特制」
「結構好きだったんだよ。…ただ、秘密だけど、敵側の方が好きだったんだ」
「……」
「嫌な理由だけど、必死だったからかもしれないね」

「僕たちの人生は、『Belka/Strelka』の下で公平に運営されていて、穏やかで、波がない」

「ただそれは、波を起こすものが全て排除されていたからなんだろう」

「…それが、小さい子どもであってもね」

「…」
「僕はね、ただ、私利私欲として、妻のいるところに戻りたい」
「君が何をするか、何ができるのかを聞かずに、ただ乗りしている」
「ひどいだろう。酷い人間だよ、僕は」

「でも君は、誰かのために行くんだろう。こんなことを言っても」
「……だから、それに協力したい」
「何も戦わずに、欲しいものが手に入るとは思わないからね」

「後悔ないようにな。スフェーン」





「プラスで。今回はハロームっていうイレギュラーが急に入ったからか、こちら側が1人多く、向こうが1人少ないわ」
「だいたい4人だけど、今年は3人で計画されてたみたい」
「運がいいわねー、ラッキーガール?ラッキーボーイ?」
「向こうだって、星からの力に対して対抗する武器の取り扱いを学ぶのに結構時間、かかるみたいだもの」
「…ま、あんたはその力は一回二回しか使えないんでしょ。なら、本気で戦うあいつらと戦う頭数には入れられない」

「あんたは力なしってこと!」
「ばっかみたい、失敗するわ、こんなの」
「無理!無駄!あはは、傑作だわ」

「無駄な抵抗にも程がある。それだったら、無気力に何もせずにはい降参しますで首を取られた方がまだ、華やかじゃない分、『Belka/Strelka』の虚をつけるのに!!」
「バッカばかしい、あーあ、頭いた、ああ」
「どうでもいいわ、どうでもいい、あんたの理想なんて木っ端微塵なんだから」
「あたし頭が痛くて仕方ないの、早く死にたいの、巻き込まないで、クソ」

「…」

「いい。あと、あそこの喫茶店。明日のどこかの時間で爆破されるわよ」
「仕方ないから、教えてあげる」

「ハロームも、カルミアも、あんたも、おまえも」
「勝手に生きるといいんだわ。あたしは死ぬ」

「あたしだけ生き残らさせたら許さないから。後追いしてやるから」
「嫌ならせいぜい歯軋りして勝つといいんだわ」




「………」

「◾️◾️◾️◾️」

「……アルクス!」

「……もう、しっかりしてよ」

「……」
「今回さ。何だか、多分、イレギュラーばっかりなんだろうね」
「ハロームっていう、普通のところ、からきた、イレギュラーに」
「ダリアっていう、企業側に回収されて育ってたイレギュラー」
「……アルクスもそう。一回も能力を見せたことがないまま出演してる出演者、なんて、変だよ」
「力もさ」

「…」

「私は変じゃないから」

「私だけ、変じゃないから」

「私だけ、何にもイレギュラーは、持ってない」

「ただ偶然に、運良く、星の声で変にならなかっただけで──」


「………」



「私、ずっと“足手纏い”なんだ」



昔言ってしまった言葉が、今になって跳ね返ってきた。









──そうして、死んでいるし、負けた。