RECORD

Eno.8 スフェーンの記録

finale:continue?


──1年間住んでいた喫茶店には、それなりに思い出が詰まっている。

ダリアは素っ頓狂なことを言って揶揄うようにして笑っている。
それは壊れた精神から生み出された狂言だったかもしれないが。
ハロームはコーヒーを淹れている。なんとも言えない、奥行きのある、深い香りは、精神を落ち着かせてくれた。
それは彼が落ち着かないからしていたのかもしれないが。彼にとってそれはルーティンだったから。
カルミアは外への憧れを口々にしていた。やあ、若い子が好くようなものを口にして、憧れを向けていた。
それは無理につぶやかれたものだったのかもしれない。外に憧れる少女を演じて、自分も先を見たいのだと鼓舞をして。
それは自分に対する罪悪感からだったのかもしれない。

かもしれなかった。

その場所を穏やかだと思っていたのは自分だけで。
実際は苦しみの最後の肥溜めでしかなく。
先を少しでも見ようとしていたのは自分だけで。
周りはそんな夢など見ていなかったのかもしれない。

卑屈な考えの方向だ。

でも、そうは思いたくなかった。

「結局エゴに塗れているが、エゴでしかないから走れる」

そんな夢をもし見ていないなら、夢を見させてくれないのは、環境だった。
自分には力がある。
自分なら、きっとみんなを、未来に連れていくことができる。
自分なら、明るい明日で、彼らが自由に笑っていられる、そんな世界を切り開ける。
全てあの機械が悪いわけではないのだろう。
が、しかし、あれが支配をしているのも確かなことだったから。

「だから壊す」

──今弾け飛んだ、居場所のように。
それが正しいと信じている。

──駆けた。




その場所がバラバラになる前に、開いた扉から、各それぞれが散らばっている。
どうせ場所が割れているなら、拡散した方が、いい。
共倒れにならなくて、済むから、と言ったのは、確かダリアだった。

共倒れになんかしないとは言ったが、他の2人も頷くから、仕方なしにそれを受け入れた。


それを後悔している。


初めに倒されたアナウンスが鳴ったのはカルミアだった。
遠くの方から雷が落ちるのが見えた。

焼け焦げたらしい。

その次にアナウンスが聞こえたのはハロームだった。
真っ当に力負けをしたと聞く。
通行人に頭を踏まれたところで、フェードアウト。

最後にダリアの笑い声が響いて、見ないようにしていたモニターを見てしまった。

凄惨な光景。
彼女のネジは、完全に外れたらしい。


後ろを振り返らない。

振り返らずに、走っていた。
ばかをした。ばかをした。ばかをした。
それでも止まるわけにはいかない。
それを託されたと解釈した。

吐きそうだ。


──ちゃんと、その機械のある真ん中までたどり着いた。
今は逃げる側である。
それを理解すれば、足は早くなるから。

だから、きちんと到達した。