RECORD

Eno.576 ELMERの記録

【アウル】夜の徘徊者④

それに確かな名前は無い。
それに明確な意識はない。
だがそれでも呼ぶとするならば、星の源として…星を殻とする者。自らの体を世界に与え、生命のサイクルを廻す…

源星の竜。6対の翼を持つ巨竜。ヒトが掘り当てた、世界の運命そのモノ。


……岩肌だけになった洞窟を歩く。ヒトの気配はおろか、生き物の気配がひとつもしない。

(ねぇ、大丈夫?)
ぴい…

鳶は少し元気を無くしていた。真っ暗闇で不安になっているのか……出来るだけ背に隠すように、周りを警戒して歩いていく。

…少しして、一気に空間が広がった。次の1歩を進めようとして、足を止める。

(………崖…?)

道が途切れている。ほぼ何も見えていないが、一定のリズムを刻み続けていた自分の足音が途切れ、地があると思ったそこは空を切った。

(…深いのかしら、全く見えないわ)

周囲には何も感じない、つまりここで足止め。答えは何も無い。全くの無駄足だったわけだ。

(……?)

脚で崖端をつついて歩く。すると、一部の床がまるで生き物のように柔らかかった。最初こそ驚いたが、ここが終点とするならばつまり死体か何かだろうと……

(視線――!?)

暗闇の中、ブレードを展開する。カシャンッと保護板が開いた音だけが木霊し、全方位に意識を向けた……視線のみ、敵意は感じない。足音も無い、いつから?尾行されていた?目的は?何も分からないそれに、私は恐怖を感じたのを覚えている。

(………?)

だが、それきり。視線だけを感じるだけで、他は何も無い。本当に、見られていると感じるだけなのだ。状況が読めず混乱しながらも、私は崖端をゆっくり歩いて……

ピイッ!!

鳶が声を上げる。背後へ振り返り蹴りを叩き込もうとした。


―――それと、目が合ってしまった。


身の丈の3倍以上ある大きな目玉。色の抜けた乳白色の瞳が私を見つめる。私自身が目に入ったゴミのようなサイズだと分からされたそれがなんなのか、暫く分からなかった。

(………まさか、これが……!?)

ヒトの掘り当てた厄災。呪いがここだけ濃かったのも、どのヒトも歪な進化を遂げていたのも納得がいく。

全ての始まり。眠る竜を掘り当てた研究所。目の前の目玉は、足元に広がる柔らかい地面は……

(…………)

言葉を失った。コレは星そのもの。何よりも美しく、何よりも恐ろしい。
…そして、それを殺せると思っていた私は誰よりも愚かであったと、今になって思う。

『…――………――――――――。』
(ッ…!?)

ずきん、ずきんと頭が痛む。立っていられず膝をつき、暫く悶えた。同時に私は観る。


―――私自身の死を。


(なんっ……だ、これ……死ぬ?私が?
……いずれ死ぬ、それは分かってる。でもなんだこれは……私は……ヒトに殺される!?)

いや、恐らくは人型の何か。だがそれに殺される。体のありとあらゆる場所を串刺しにされて。

(どうなってる……どうなっている!?星の竜…お前、何をした!?)

目玉を睨む。頭痛だけで意識が落ちそうになるのを、歯を食いしばって必死に堪える。

源星の竜は星そのもの。星に生きるものの運命すら見通せる、神同然。

(ダメだ…ここを出ないと頭が割れる……ッ!)

幸い出口はまだ薄暗い程度。位置はすぐに分かった。一直線に駆け出し、研究所へと戻る。

かっ、かっ、かっ、かっ、かっ…

走って、走って、闇に怯える子供のように逃げて、人のいない医務室へと駆け込んだ。

頭痛が、耳鳴りが止まなくて、そこで暫く意識が落ちたのを、私は鮮明に記憶している。