RECORD

Eno.576 ELMERの記録

【アウル】夜の徘壊者⑤

…………何をしていたんだっけ?

「手足と臓器が機能不全。1号はガワ臓器以外がイカれています。どうしますか?」
「丁度いいじゃないか。1号の中身を2号に入れ替えろ。不要な手足は……義足があったろう?アレに付け替えよう」

…手足がある。でも、体は動かない。
痛みは生きてるから、全身が焼けているよう。

(…………嫌だ)
「大人しいもんですね。人形みたいだ」
「違うぞ、首から下が麻痺して動けないのさ。さっさとやるぞ、そっち落とせ」
「麻酔は?」
「いらねぇだろ」
(ッ……!!)

記憶の追体験?だとしてもリアルすぎる痛覚。糸鋸が腕に食い込む。耳に響く重い音。激痛、やめて、やめてよ。

(痛いッ…痛いッ!)
「うっわ…なんで関節からいかないんです…?」
「腕になにか付ける時に関節が生きてないとダメだろ?」
「だったら麻酔打ってやりましょうよ…ショック死が…」
「はっ、ヒトじゃねえんだから大丈夫だよ。どーせ死ぬのが決まってるバケモンだよ」

最悪。本当に最悪だ。こんな、屈辱を、こんな地獄をもう一度見る事になるなんて。
何故こうなんだ、何故私たちは……

『―――――。』
……誰だ。そこで笑っているのは

視界の端に映る私の手足。グズグズになり、指は出来てない。足なんて骨が剥き出しだ。

…ああ血が、もう意識が持たない…
ピィーッ!!

……この、声は…

ピィッ!

(……あ…)

ここは…そうだ。医務室で倒れたのだっけ。
動こうとするが、結晶が邪魔だ。……どうやら竜の近くは鱗粉が濃いようで、ヒトが混ざった私ですら、呪いの影響を受けている。無理やり立ち上がると、胸や腹から結晶が割れるような音が聞こえた。

(い……た……)
ピィ…
(…だい、じょうぶ。大丈夫)

生命維持装置は生きている。結晶は生体だ、無機物には張り付いても侵食することは無い。……こんなもので無理やり生かされていると考えると、本当に嫌になる。

(…ここに竜がいる。アレを…殺す……?)

あの瞬間に、無理だと悟ってしまった。こんな終わりきった世界に、たった一人のヒトモドキ。死の運命すら見せられて、何が出来るというのだろう?

(……もう、疲れたな…)

ずっと歩いてきた。ずっとヒトの命令に従ってきた。痛みに痛みを上塗りし麻痺させて、ヒトを殺してきた。
でももう限界だ。なにも、何もしたくない。

せっかく立ち上がったのに、動きたいと思えなかった。尻尾に抱えた鳶を離し、医務室のベッドへ身を投げる。

(…人間が居ないのに、私はなんの為に生きているの……?)

ヒトモドキがに勝つ事など不可能。勝ったところでもう繁栄するもの達すら消え失せた。ただ生命維持装置のままに生かされている。ただの人形…

ピ…ピッ…

微かに聞こえる声。鳶がベッドに乗ろうとしていた。

(……この子の翼が治るまでは、ここにいようかな、もう…)

この子や普通の動物たちは鱗粉の影響を受けない。私たちヒトだけが、竜を掘り起こした報いを受け続ける。

(私なら耐性がある。ここは生命維持装置の寿命を伸ばせるかもしれない)

私は使命を棄てた。
…もう生きている意味は無い。無理やり、この子を言い訳にして生きようとしているだけのボロ人形。

……誰でもいい。こんな世界地獄を終わらせて。
もう少し、ヒトっぽいことしたかったな……