RECORD

Eno.873 Feher Istvanの記録

吸血鬼ということ


×××

単なる不運、もしくは幸運の巡り合わせであったろうか。
転がったいくつかの“人だったもの”を視界に捉える。撒き散らされた幾ばくかの血液が、独特の生臭さと鉄臭さで部屋を埋めていた。

思わず後退り、袖で口元を覆った。
そんな己を、悠然と見下ろす、黄金の双眸。

ふわ、と白銀が視界の端で揺れて。静かに、笑みを浮かべたような。

 ×××

静かに目を開いた。
真っ暗の部屋、異状はない。

吸血鬼は自由だ。夜の間は誰よりも、何よりも。
そうあるべきだ。それで、

そのようにしていた。している。



吸血鬼は複数の祖たる個体から分派した血族ごとに分かれる。
血を糧とする、日差しに弱い、などの共通した基本の性質に加え、血族ごとに異なる特性や能力を持つ。

我が祖たる吸血鬼の持つ特性、それは“弱くある”こと。
軟弱で、情けなく、哀れで、無害で、愛嬌があり、人好きのする、そんな立ち居振る舞い。存在。あり方。

そんなことが、そのように振る舞うことが、あってたまるものか。
俺は弱くなどないし、相応の振る舞いをする。

弱いふり・・・・などするものか。

「…………」

「――」