RECORD

Eno.563 ブルーバードの記録

天浅葱の日記

仕える主を亡くすことはとても辛い事だと聞いた。
生まれ変わってもなお、心に刻まれる程に。

「あのような事が無ければあのお方は」

は、誰かに仕えたことはない。
仕えていただく立場だった自分には、その気持ちを本当の意味で理解することができない。
果たして……自分はそう思っていただけるような、良い主だっただろうか。



……答えは、誰より自分が知っているのだろう。
迷いなど感じる必要もない。
結果が此処にある。

・状況、戦況を把握することすらも一人では困難であること
・何が起きていたのかの手がかりすら無いこと
・終始丁重に守られていたこと
・有事の際に囮にされていないこと

神の血を理由にした表向きの忠義ではこうはなっていない。
私が何も知らないことが、何もわからないことが、皆の揺るぎない強い忠義と大きな愛情に他ならない。
化けて出たのは個人的な感情である。
仕えた主は敗軍の将だった。
そうとしか生きられなかった。大変申し訳無いと思っている。

「もっと自分が賢ければ、もっと大人だったら、自分に戦場の指揮が取れる力があったら」

生まれ変わっても忘れることはない。
その後悔はきっと、愛情だった。
私は皆を愛していた。

そしてこれもきっと、真実なんだ。

私は、愛されていた。
誠意を以て仕えていただいていた。



……は、皆にとって、愛すべき良い姫様だったのだろう。






大切だからこそ汚いもの醜いものを見せまいとした皆の愛と忠義と
姫様と呼ばれた者の責務としてせめて真実を知り背負わせて欲しい私と
相思相愛だったのかもね。
みんなの愛の大きさの分、私の後悔も大きかった。
多分、そういう話だ。

転生しても何もわからないと泣く私に
「誰の手にもかかることなく純潔を穢されることもなかった、あれは一種のハッピーエンドだった」
と言った””王子様””は、ある程度計画を知っていて固く口止めをされ、転生後もそれを守ったのだろう。
……転生後なら覚えている範囲で話してもよかっただろうが
自称思い出そうとすると激しい頭痛と吐き気に襲われる彼に、そんな勇気は無かったんだろうな。
もしあったら、ああいう終わりにもなっていなかったはずだし。

王子様が姫様を「好き」と思った気持ちは、まあ本当だったんだろう。
でも、恋した姫君は激しい頭痛と吐き気がするほど大きく重たい宿命を背負っていた。
大勢の家臣と父親と弟の命を踏んで、血を伝える最後の希望。
そしてその事を、本人には絶対に伝えてはならない。
(何かの契約を父上と交わしていたかもしれない)
で、自分はそれの相方にならなければならないと。
……そんなの、あのちびちび肝っ玉の王子様に務まるはずがない。

から

父上のことだ、代役を立てていた可能性が高い。
あの自信のなさ、代わりはいくらでもいる、と言われていたのかもしれない。
女はその腹から子を産むから子を偽ることは難しいが、種はこの場合誰でもいい。
家格が劣る王子は娘の盾になればそれでいい・・・・・・・・・・・・のだ。

そう考えると、彼が見た走馬灯が『追手を全て倒す』だったことと辻褄が合う。
彼に課せられた役目は、都落ちする姫様に寄り添うフィアンセではなく、姫様に仕える武家としてその命を懸けて『追手を倒す』ことだったのではないか。
それなら、羽のような子供の淡い恋心よりも、重たい重たい役目に気を取られて当然だし
姫様の気持ちや思い込みと食い違いがあって当然だ。
で、当の姫様は自分の命より家臣や王子様の命を優先する、愛情深い人。
彼にとっては、姫様が自分の命を投げ出してしまうのは計算外だっただろう。
役目と愛情に挟まれ役目を取った王子様と、金や権力より愛情を取った姫様。
食い違いはもう、この時から決定的だったのだ。
(そうして転生後、姫様に会った時点で彼は何をどうすればいいのかわからなくなってしまったのだろう)

……父上はあのホワイト一辺倒でよく一つ家を回していたと思ったが
案外と腹黒いところもあったのかもしれない。