RECORD

Eno.576 ELMERの記録

【アウル】夜の徘徊者⑧

……

…………世界は 平等に死を贈る。

人間は命のサイクルを少しづつ伸ばし、自分達ではなく、世界を進化させ続けてきた。…いや、それこそ人間たちの自己進化の行き着く先だったのかもしれない。

呪いは、ヒトが掘り起こした竜によって撒き散らされた竜の鱗粉。本来は呪いなどではなく、ただ進化を促す祝福にも近いものの筈だった。

…それが、自分達ではなく、周囲を進化させる人類にとって毒となることは分からぬまま。


(………………)
(……………ここは、どこ…)

真っ暗。何も見えない。ずっと、ずっと眠っていたみたいだ。
意識が途絶える前の記憶が曖昧で、最後に見たのは、眼前まで迫っていた槍。ここがどこかも、私が今、どんな状況かも分からない。

(……………うご…ける……?)

ごり、がり……

視覚、聴覚、嗅覚は完全に死んだ。辛うじて生きているのが奇跡だ。生命維持装置に、そんな機能があるとは知らなかったけれど。

(…あの子を木に置いてきて、こんな所で死ぬのか…私……)

何も見えないまま脚を引き摺る。
私が生きてきた意味はなんだったのだろう?

たった1匹、なんでもないものとして生まれ友達が欲しかった
裏切るもの、逃げ出すものを殺しライバルが欲しかった
誰一人として、仲間のいない私が家族が、欲しかった

意味が無い。何も、意味が無い。
無駄に生きた意味も、これから死ぬ意味も。

ごつ、と頭に何かがぶつかる。
……ああ、思い出した。竜に見せられたあの死に際を。

……槍が、頭に突き刺さっている。

尻尾1号は動かない。ずる、ずると引き摺るだけの邪魔な肉塊だ。


……もっと生きたかった


どこに歩いているかも分からない。体から零れていく命を赤色として地を染めながら、体が何かにぶつかった。

(………?)

今更、肩に何かが生えている事に気付く。どうやら足を引き摺る音とは別にコイツが地に当たっていたんだ。

(……ここは…)
『――――――。―――』

声が聴こえる。誰かも分からない声。死に際の映像を見る時に聞こえた声。つまり、ここは……

(竜の……前か…)

導かれたか、あるいは体がここを求めたか、神様なんて、縋ったところでろくな答えをくれる訳ないのに。

(結局私も…人間なのか……な……)

ばしゃり、と水溜まりの上へ倒れ込んだ。赤色の混じっていく泥水をブクブクと吹きながら、私は死んでいく。

………いや、いや。まだ…

(まだ……やり残しを……)

どうせ死ぬのなら
どうせ終わるなら


ボロボロの脚を突く。竜の目に寄りかかり、何とか体を起こした。

(肩に生えているものが結晶なら、コイツには毒となり得る……私たち竜の血を得たものはみんな死んだ……なら……)

死なば諸共。コイツだけでも地獄へ一緒に送ってやる私だけ死ぬのは悔しくて死にきれない

ざく、と腕の結晶を目へ突き刺す。

『―――――――――』
(黙りなさい…)

ざく、ばき

右腕が折れた。ならば、左腕の結晶を。

竜は一切身動きも、瞬きすらせずに瞳に突き刺さる結晶を見ていた。何もせずとも死ぬ命を、じっと。

やがて左腕の結晶も折れてしまう。抜いて、刺してを繰り返した竜の瞳はズタズタに、獣の体は、もう動くことすら苦しいのにやめなかった。

(死ね…死ね…死ね………)

噛み付く。牙を立てる。噛みちぎろうと必死に体を揺らす。その無意味な行為を、エルメルは繰り返した。



(生きた意味を、存在した理由をくれないのなら……せめて、死ぬ意味だけは………)
『……………―――――。』

そして、獣は息絶える。死んだはずの目から、ボタボタと赤い涙を流して。


……竜は考えた。
死ぬ意味とは。
生きる意味ではなく、死ぬ意味が欲しいなら。


竜の孵化は間もなく。その時に、ある物へ1つ贈り物をした。

最期まで戦い抜いたその脚へ。それを振るう守主へ。
自らの体の1部を、分け与えた。