RECORD

Eno.576 ELMERの記録

幕間:黒狼と白狼①

「……ふ……ふ…ふ……ふぅ…」

整備場に残っていた木人を一通り蹴り飛ばし、傷の増えた脚を見つめ、少しだけ物思いに耽る。

(…これから私が守り抜かなきゃならないのは、ムゥ。そして…私を救ってくれたファウスト。あとは……)

この脚では役不足だ。自分でも感じる。
どれだけ技術を手に入れても、どれだけ研鑽を積んだとしても、この脚はニセモノだ。モノである以上、壊れてしまうんだ。
…それに、最近コイツパルスヴレイドの反応速度が落ちてきている。私が向こうで死んだとして、いや…私がコイツと稼働し始めた時から、研究者達はメンテすらしてないはずだ。もとより、そういう設計をされてきたから。

…私が稼働しきれる限界時間と、コイツの寿命は合わされてる。つまり、これ以上さらに生きられる私は、コレが壊れる迄に新しい脚を見つけなければならない。

(……痕跡を片付けて、帰るか)

そろそろムゥが起き始める頃合いだ。一応手の練習も兼ねて木人を引きずる。



……瞬間、身の毛のよだつような殺意を背後に感じた。



「ッ!!?」「クソがッ!」

振り抜く脚、打ち返され、軸にしていた脚も蹴られそのまま固められる。僅かに見えた角、同じような気配。嫌な予想が食いつくように私を冷やす。


「……な、何が目的だ!私の命か!?研究者にでも雇われてはるばるここまで殺しに来たか!!」
「……やっぱ、お前は…」
「答えろ!!貴様は誰だ!私をここで殺せると思うなよ!!」
「…落ち着いてくれ、エルメル。お前を殺すつもりも、脅すつもりもないんだ」
「……は…?」

私を固めた獣はゆっくりと拘束を解き、立ち上がった。狙い済ますように飛び起き脚へ剣を振り、すんでで止める。その獣は、動くこともなく私を見つめていた。

「……貴様、は……?」
「…何故ここにいるのかは知らないが、俺は敵じゃない。それに、今の俺はお前には殺せないぞ」
「……何のために、私にコンタクトを取った?」
「別に、たまたまここに訪れたらお前がいたんだ。タイミングが悪かっただけだよ」

右目はどうやら、角によって潰れているらしい。ボロボロの木人を見つめ、それから脚へと目線が移る。

「……お前、その脚なのは変わらないんだな」
「は?」
「いや、いい。
…お前の脚、反応速度も重量も、竜晶込で使うにしても難しいだろ。お前が良ければ、脚を作り直してお前にやる」
「……いや、いやいや待て。貴様は誰なんだ?何のためにこんな事をする?」

角のある獣はこちらを一瞥して、少し考えて口を開いた。

「…俺はクロード。元アンデッドビーストだ。
雰囲気を見ればお前も少しズレてるようだな。ただのパトロンと思ってくれていい」