RECORD

Eno.480 タラッタムー・スラットゥスの記録

ねずみはよだかの夢を見る


 夢を語ったとき、
「あなた、かわいそうね」
と魔法の師匠に言われたことがある。
 昔の記憶だ。
その時の僕はずいぶんととぼけた声でどうしてだい、と聞いた気がする。
かわいそうといわれることに対して心当たりが全くなかったからだ。
「そのこころ、ネズミが抱えるには大きすぎるわ」
 師匠は、きっと生まれる身体を間違えたのねなんていいながら僕の顎を緩やかに撫でる。
大けがをして流れてきたネズミに、言葉や魔法を教える酔狂な女だった。
 鈴を転がしたような声で、師匠は続ける。
「その、分不相応な精神は容赦なく貴方の全てを焼くことでしょう」
「賢く生きるならさっさと捨てて下水道に戻った方が幸せなのに、短い命なのだから」
くすぐったくて、眠くなるような甘い声だった。

「あまりにも短く、小さい命」
「戦うにも、魔法を使う、考えるにも、あまりにも要領/容量が無い。」
「貴重な命をただいたずらに燃やすだけ」
「すべて焚べて燃え尽きたとしてもネズミの全てなんてたかが知れる」

「――貴方が夢に手が届く保証はおろか何ができるかも怪しいというのに」

「それでも?」


それでも、追いかけるのかと師匠は問うた。
その時は、どう答えたのかあんまり覚えていない。
それでも生まれ故郷の下水道には一度も帰っていないのが答えなのだろうと思う。