RECORD

Eno.576 ELMERの記録

幕間:黒狼と白狼④

「……………っ、ふぅ。ふーっ…ふー……ふー……い”…ぐ…ゔゔ……!」
「おい。動くな、余計痛むぞ」
「っでも……いだ……ねぇ、ね……すとっ…」
「……分かった、一旦辞めるぞ」

少しして、顔の仮面の剥離に取り掛かり始めた。完全に癒着してしまった鉄面は固く、少しずつ刃物を差し込み切り離して行くしかない。一応麻酔こそ使うが、私たちは元々生物兵器。薬への耐性が強く効きずらかった。激痛に何度も手を止め、未だに進捗は芳しくない。

「……なぁ、やめた方がいいぞ。これじゃお前の体力がもたん。子供にも、変に勘繰られるぞ」
「いいの…このままじゃ、あの子に笑いかける事も、頬を擦る事も出来ない……私は、あの子の親として…出来ることは何でもしてあげたいの……」

母親として。ミハエルに、ファウストに任された者として、あの子を守る為にできることは。だが、黒狼は少し小さくため息をついた。

「…生き急ぐのは良いが、お前のそれは危険だぞ。いずれ、子供まで巻き込みかねないからな」
「貴方が私に説教?随分長い間生きてるのね」
「…ああ、少なくとも…お前よりはずっと過酷な生き方をしてきた。何度も死んで、生き返って、不死になって……ほら、気休めだが薬を塗る、もう少し我慢しろ」
「そうは……い”っ…」

顎はだいぶ涼しい風が入ってくるようになった。前よりもしっかり口が開く。あとは上顎、そこから顔面まで。まあ闇医者同然だけど、しばらくはこのまま治療されるしかない。

「……どの道、お前が戦うのはその子の為だろう?なら、それまでは生き急ぐんじゃなく、その子の時間に合わせてみたらどうだ?」
「…ムゥに、合わせる?」
「ああ、簡単だぞ。少し長い時間一緒に居るくらいでいい。顔も、声も、匂いも、忘れにくくなるくらいに一緒にいれば、勝手に愛情なんて消えなくなるさ」