RECORD
Eno.7 の記録
あれから如何程の時が経ったかを私は正しく記憶していない。
友人であった彼女の背を見送ったあの日、
手元足元に引っ掛かる布や家具を無視して己の部屋に逃げ込んだあの時、
もう何も要らないのだと、全てが無駄であったのだと腑に落ちたあの瞬間から。
薄ぼんやりと意識の網に残るのは、代り映えのしない天井を眺め続けていた無為な時間。
最早何をする気も起きなかった。結局のところ、間延びした末路が齎したのは真綿で首を絞める様な停滞と亀裂を深め続ける衰弱だ。
火の目を見るより明らかであった退廃は、予定調和にその末路を辿っただけであるとしか言いようがない。
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――強いて予定調和から僅かに逸脱した部分を述べるとするならば、ああ言い残し消えていった彼女はそうなれなかったという事だけだろうか。
手を変え品を変え手籠めにしようとしていた神々の思惑は漸く叶い、記憶も命の選択肢も簒奪して傀儡とする事に成功したのだと、後に聞いた。
最早、何をする気も起きなかった。
人間ひとり苦しませた上に破滅させておいて、のうのうと生き延びる事も死に逃げる事も許し難かった。そんな気力はどちらもない。
至らずとも成せずとも全くの何もかもが害であったわけではないと諭されたとして、それが一体何になるのだろう。
今の状況を鑑みて、何を楽観できる要素があると言うのだろう。
だからあの青い海も青い空も見ずにただ在るがまま、何もせず。
何も慰めにせずにいればこれ以上何も恣意的に悪化させる事無く、何もかもを遠巻きにただお前の所為だと諦めていられる、そう思っていた。
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ただ、そうはなれなかった。
何方にせよ拒否や拒絶に意味があるとも思えなかったが、彼女に縁故のあった彼の時間を死んでいないだけの相手に対して割かせ続ける訳にはいかなかった。
一人でなら勝手に総てを泥に棄てても構わないが、他人をそれに巻き込む必要も無い。
それとも、それすらどうでも良いと称する事が出来れば良かったのだろうか、……後の祭りだ。
どうあっても正しい選択なんかできないのだから良いも悪いもないか。
兎角、それもあって私の精神と身体は"良くなった"。
何も考えず何も感じず、暗がりを覗き続ける様に天井を眺める物よりかは余程、だ。
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その後訪れた身勝手と自分勝手、手前勝手を振り撒いた口がそう述べた時にすら、何も思わなかった。
寧ろ既に此方とは関係無いと言い切って良い程に話を進め、自分たちの想う様にしてきたのだから好きにすればいい。
内々で勝手に揉めるのも、その結果取り返しのつかないことになろうとも知った事ではない。
彼女を傀儡にして、解放し、その過程と予後を愉しみたいらしい連中はまだその腹を満たしていないという事だけよく分かった。
生き延びていつかその時が来たならば、今までの想いを語りぶつけろと言うが。
手と言葉を尽くす事の無意味さを髄に染みるまで示し
憤り悲嘆する激情を向けた所で一蹴されるだけだと突き付けた側の者からそう発せられるのだ。
どちらも。今になって私に人間性とやらを求めていた。
それとも、無力感と諦念を建前に嘗てあれほど大切に思っていた存在すら、私はどうでもよくなったのか。
仮に、そう問われたとして否定はしないのだろう。
彼女の生死を明かされた時も、その後も被害者面して問題から背いているのだから。
最早何をする気も起きなかった。
*経過:S1→
あれから如何程の時が経ったかを私は正しく記憶していない。
友人であった彼女の背を見送ったあの日、
手元足元に引っ掛かる布や家具を無視して己の部屋に逃げ込んだあの時、
もう何も要らないのだと、全てが無駄であったのだと腑に落ちたあの瞬間から。
薄ぼんやりと意識の網に残るのは、代り映えのしない天井を眺め続けていた無為な時間。
最早何をする気も起きなかった。結局のところ、間延びした末路が齎したのは真綿で首を絞める様な停滞と亀裂を深め続ける衰弱だ。
火の目を見るより明らかであった退廃は、予定調和にその末路を辿っただけであるとしか言いようがない。
「楽になりたいなって」
――強いて予定調和から僅かに逸脱した部分を述べるとするならば、ああ言い残し消えていった彼女はそうなれなかったという事だけだろうか。
手を変え品を変え手籠めにしようとしていた神々の思惑は漸く叶い、記憶も命の選択肢も簒奪して傀儡とする事に成功したのだと、後に聞いた。
最早、何をする気も起きなかった。
人間ひとり苦しませた上に破滅させておいて、のうのうと生き延びる事も死に逃げる事も許し難かった。そんな気力はどちらもない。
至らずとも成せずとも全くの何もかもが害であったわけではないと諭されたとして、それが一体何になるのだろう。
今の状況を鑑みて、何を楽観できる要素があると言うのだろう。
だからあの青い海も青い空も見ずにただ在るがまま、何もせず。
何も慰めにせずにいればこれ以上何も恣意的に悪化させる事無く、何もかもを遠巻きにただお前の所為だと諦めていられる、そう思っていた。
「お前には、良く在って欲しい」
ただ、そうはなれなかった。
何方にせよ拒否や拒絶に意味があるとも思えなかったが、彼女に縁故のあった彼の時間を死んでいないだけの相手に対して割かせ続ける訳にはいかなかった。
一人でなら勝手に総てを泥に棄てても構わないが、他人をそれに巻き込む必要も無い。
それとも、それすらどうでも良いと称する事が出来れば良かったのだろうか、……後の祭りだ。
どうあっても正しい選択なんかできないのだから良いも悪いもないか。
兎角、それもあって私の精神と身体は"良くなった"。
何も考えず何も感じず、暗がりを覗き続ける様に天井を眺める物よりかは余程、だ。
「そのうえで……俺に力を貸してくれ」
その後訪れた身勝手と自分勝手、手前勝手を振り撒いた口がそう述べた時にすら、何も思わなかった。
寧ろ既に此方とは関係無いと言い切って良い程に話を進め、自分たちの想う様にしてきたのだから好きにすればいい。
内々で勝手に揉めるのも、その結果取り返しのつかないことになろうとも知った事ではない。
彼女を傀儡にして、解放し、その過程と予後を愉しみたいらしい連中はまだその腹を満たしていないという事だけよく分かった。
生き延びていつかその時が来たならば、今までの想いを語りぶつけろと言うが。
手と言葉を尽くす事の無意味さを髄に染みるまで示し
憤り悲嘆する激情を向けた所で一蹴されるだけだと突き付けた側の者からそう発せられるのだ。
どちらも。今になって私に人間性とやらを求めていた。
それとも、無力感と諦念を建前に嘗てあれほど大切に思っていた存在すら、私はどうでもよくなったのか。
仮に、そう問われたとして否定はしないのだろう。
彼女の生死を明かされた時も、その後も被害者面して問題から背いているのだから。
最早何をする気も起きなかった。