RECORD

Eno.7   の記録

*白鴉は扉を叩く

 

「ジュヘナザートのことが気になります」

「救いたいわけではなく 知りたいのですよ」



無味乾燥おだやかな日々を過ごしている時の事だった。海からは冷え切った風が吹いて、それをテラスからなんとなく眺め。
次のシーズンの噂話が耳に入る程度には部屋の外と接続を保てる状態になった折のこと。
純白の装いに柔らかく見える光輪、そして――潮風に揺れる、桃色の髪。
気さくに私へと話し掛ける死生の権能を名乗った天使はどうやら私との相席を望んでいるらしく、その姿が視界に入った瞬間。思わず目を逸らしたのは何故だったか。
話し好きであろうことは口振りから伺えたからオフシーズンで人の少ない中、手慰み口慰みの相手にでもされたのかもしれない。
ならばその内勝手に飽きて消えていくだろうから、と。事実もそれだけであれば良かったのだが……冒頭の台詞に戻る。

初めに耳を疑った。
次についぞ使い物にならなくなったのかと頭を疑った。
推測が外れていないのであれば誰とでも良かったのだろうが、偶発的にこうなったのならばとんだ外れクジを引いたことになる。無論と互いに。
世辞にも関わり合いになりたいような人間ではないだろうに、無垢にも「あなたのことが放っておけない」などと宣うのだ。
人間にも天使にも普通にも興味はさして無いと述べた口で私を知りたいと言う。
単純な好奇心でもなければ同情心でもない。意味が分からない。やはり頭がおかしくなったのだろうか。

「あなたと お友達になりたいのですよ」


そして終いにはこんなことを口走る。聞いた瞬間はめまいを覚えた。
理由を問い正し分かったことは、ただ私という存在の全てを知りたいと言うこと。
そして交友関係を結ぶことに種族も理由も必要ないという主張だけだった。
腑に落ちて理解できたとは言い難い、が。

「……」


――主導権やらを手放すことには慣れている、そしてそこに異論はない。選択や己らしい意思なんて持つだけ最悪だ。
何を考えようと、考えていようと意味はないのだ。好きにすれば良いと思う。
どうせ、何を選択し主張しようなんて事はないのだからそれらしい言葉に流されて波が攫う様な無為でいい。

「──嗚呼」「よかった」


たといその結果、いつかのリフレインになったとしても。



「    あなたはわたしのはじめてのともだちですよ    」



その言葉を聞いた時、"捕まった"と思った。
近くで白い鴉が鳴いている。

……次はどのようにして、この間柄を喪うのだろう。