RECORD
Eno.385 リリィ・スパルトイの記録
スローネ
「まだ着かないのか」
「ここに来るまでに予想以上の待ち伏せや罠があり、どうしても後手に回っておりまして……でもあと半日もあれば合流できるはずで……」
「内地駐屯の騎士様はお気楽で良いよな。俺たちが前線で死に物狂いで戦っているのにのんびりお使いしているだけで金が貰えるんだから」
「それは……その……そんなこと……」
「形式だけ取り繕った戦術、お遊戯みたいな剣術。車輪の天使の名が泣くだろうに。運び屋なら運び屋らしくスマートに仕事してくれよ」
西へ東へ、北へ南へ。
物資と補給、人員を輸送するために日夜行軍するのがあたしたちスローネ隊の役割だ。
異賊が現れた際、各方角の駐屯地のある街まで足を運んで荷物を渡し、人を寄越す。
あるいは前線から離脱せざるを得ない程の怪我人を運ぶこともしばしばある。
補給部隊は有事の際、戦線を維持するのに必要な組織ではあるものの、内勤の事務官には使いっぱしりとして扱われ、前線部隊には小言を言われ、増援部隊輸送の際には彼らの体力を温存するために代行して戦闘をするべく気を張る必要がある。
こうした小言も既に慣れたものだ。
補給部隊であるスローネには、あたしのように戦闘に特化したいわゆる護衛の立場の人員は少ない。
そういう人たちは大体がその他の各前線部隊に投入されるのが常だからだ。
移動の際に不自由のないよう密偵や医療班といったサポートは手厚いが、実践となるとむずかしくなる。
護送する増援部隊は前線で本領を発揮するのが仕事であるから、大体の場合、手を貸してくれることもない。
「っ! はぁ……はぁ……」
だからこうして泥まみれで汗だくになり、鎧の重みでふらつきながら、帝国騎士となった際に賜った帯剣を杖代わりに立つのがやっとだ。
「負傷者はいないか!」
「問題ありません。再度警戒しつつ進行します!」
「あの賊共め、この忙しい時に」
異国の斥候が侵入、あるいは物資だけを狙った盗賊団と交戦することは少なくない。
気は進まないが、今回は後者と相手をすることになった。
口々に悪態を付きながらも、スローネは前線へと歩みを進めていく。
ふらつく足を何とか奮い立たせて気丈に振る舞い、殿として後方を警戒しながら歩き続ける。
汗をぬぐおうとすれば泥や汚れが顔に付着する。眼に入りでもすれば致命傷になりかねない。
だからひたすらあたしは歩く。騎士としてせめてもの威厳を保ちながら。
その日はそれ以降、特に問題なく物資と人員の輸送は終わった。
帝国へ帰る際に負傷者の輸送はなかったが、戦死した騎士を一人運ぶ仕事が追加で入った。
「それじゃあよろしく頼むよスパルトイ。
彼は前線でよく頑張ってくれたんだ。無事に家族の下まで無事に送ってやってくれ」
「……はい」
――こういう時が一番やるせなくなるんだ。
「ここに来るまでに予想以上の待ち伏せや罠があり、どうしても後手に回っておりまして……でもあと半日もあれば合流できるはずで……」
「内地駐屯の騎士様はお気楽で良いよな。俺たちが前線で死に物狂いで戦っているのにのんびりお使いしているだけで金が貰えるんだから」
「それは……その……そんなこと……」
「形式だけ取り繕った戦術、お遊戯みたいな剣術。車輪の天使の名が泣くだろうに。運び屋なら運び屋らしくスマートに仕事してくれよ」
西へ東へ、北へ南へ。
物資と補給、人員を輸送するために日夜行軍するのがあたしたちスローネ隊の役割だ。
異賊が現れた際、各方角の駐屯地のある街まで足を運んで荷物を渡し、人を寄越す。
あるいは前線から離脱せざるを得ない程の怪我人を運ぶこともしばしばある。
補給部隊は有事の際、戦線を維持するのに必要な組織ではあるものの、内勤の事務官には使いっぱしりとして扱われ、前線部隊には小言を言われ、増援部隊輸送の際には彼らの体力を温存するために代行して戦闘をするべく気を張る必要がある。
こうした小言も既に慣れたものだ。
補給部隊であるスローネには、あたしのように戦闘に特化したいわゆる護衛の立場の人員は少ない。
そういう人たちは大体がその他の各前線部隊に投入されるのが常だからだ。
移動の際に不自由のないよう密偵や医療班といったサポートは手厚いが、実践となるとむずかしくなる。
護送する増援部隊は前線で本領を発揮するのが仕事であるから、大体の場合、手を貸してくれることもない。
「っ! はぁ……はぁ……」
だからこうして泥まみれで汗だくになり、鎧の重みでふらつきながら、帝国騎士となった際に賜った帯剣を杖代わりに立つのがやっとだ。
「負傷者はいないか!」
「問題ありません。再度警戒しつつ進行します!」
「あの賊共め、この忙しい時に」
異国の斥候が侵入、あるいは物資だけを狙った盗賊団と交戦することは少なくない。
気は進まないが、今回は後者と相手をすることになった。
口々に悪態を付きながらも、スローネは前線へと歩みを進めていく。
ふらつく足を何とか奮い立たせて気丈に振る舞い、殿として後方を警戒しながら歩き続ける。
汗をぬぐおうとすれば泥や汚れが顔に付着する。眼に入りでもすれば致命傷になりかねない。
だからひたすらあたしは歩く。騎士としてせめてもの威厳を保ちながら。
その日はそれ以降、特に問題なく物資と人員の輸送は終わった。
帝国へ帰る際に負傷者の輸送はなかったが、戦死した騎士を一人運ぶ仕事が追加で入った。
「それじゃあよろしく頼むよスパルトイ。
彼は前線でよく頑張ってくれたんだ。無事に家族の下まで無事に送ってやってくれ」
「……はい」
――こういう時が一番やるせなくなるんだ。